『進撃の巨人』担当編集者から見た「諫山創」の11年7ヵ月

担当編集者インタビュー
現代ビジネス編集部

――当時、絵について川窪さんから指摘したことはありましたか?

川窪:それはもちろん、ありました。僕は諫山さんの絵が下手だと思ったことは無いですし、むしろ初めて見た時から上手いと思っているんですが、諫山さんの性格的なものだと思うんですけど、興味がないことに対してはこだわりが無いんですよね。自分がどうでもいいやと思っていることはどうでもいいっぽくて。

たとえば、「線をきれいに描く」ということについては興味がない。上手に描きたいとは思っているけど、たぶん、線のきれいさと絵の上手さは関係が無いと思っている。だから、「線をきれいに描こう」ということはよく話していました。それで、マガジンの連載作とかを模写してもらったりしてたんですけど、それでもなかなか線がきれいにならなくて。

たしか『進撃の巨人』の連載が始まってからだと思うんですけど、原稿を持ってきて、それを見ながら「読者がお金を払ってくれていて、その対価として描いてるわけだから、もう少し丁寧に絵を描こうよ」って話をしたんです。たとえば、マントに調査兵団のマークが描いてあるんですけど、その羽の枚数がコマによって違ったりするんですよ。

それに線も閉じられてない(※線の始点と終点が重なっていないこと)ので、こういうところは気を付けようって言ったら、「川窪さんが仰るので、線をきれいにした方がいいということはわかりました。でも、僕はこの線が汚いとは思いません」って言われて。その認識の差は最後まで埋まらなかったですね。

 

連載中の苦悩と喜び

――その後、『進撃の巨人』の連載は11年7か月の期間に及びました。この連載の中で、川窪さんから見て諫山先生が苦しんでいた時期はありましたか?

川窪:いくつかありますけど、やっぱり連載初期は苦しんでいたと思います。いくら諫山さんといえど、最初はどういう考え方で作っていけばいいのかとかもわからないですし、ヒキってなんだろうとか、5巻単位とかで話を作っていかないといけないけど毎話盛り上げないといけないしとか、考えることはたくさんあって。でもその中で自分の武器も見つけないといけないので、諫山さんの「型」みたいなものを見つけるまでは大変だったと思います。

その時期に2人の間でよく揉めていたのは、僕は「もっとわかりやすく」ということを言っていたんですが、諫山さんは「わかりやすいのは自分の好きな漫画じゃない」と言っていて。諫山さんは伝えたいことが明確にある作家なので、「この回は読者をびっくりさせたい」とか「この回はこのキャラを格好良く見せたい」といったようにやろうとしていることがハッキリしているんです。

でも、「それならもっと格好良く描かなきゃ」とか「もっと泣きのエピソードを入れなきゃ」と僕が言うと、「いや、そこまでやっちゃうとちょっと……」となることがたびたびあって、その時期は互いに苦しんでいたと思います。

あとは、単行本で言うと特に14~16巻の時だと思うんですけど、どうやっても面白いものが描けないと苦しんでいた時期がありました。それまでは人間対巨人の話を描いていたのに、人間対人間の話になってきて。必要な話ではあったんですけど、それほど政治とか社会とかに詳しいわけでも、特別興味があるわけでもないのに背伸びして描かざるを得ないというのがあって、その時は苦しんでいましたね。

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