「オタク」になりたい若者たち。倍速でも映画やドラマの「本数をこなす」理由

生存戦略としての倍速試聴
稲田 豊史 プロフィール

自己紹介欄に書く要素が欲しい

ある意味で、目的とプロセスが逆になっている。

従来のオタクは、何かが好きすぎるあまり、大量に観たり読んだりする。その結果、他のジャンルが気になってきて興味が広がり、さらに大量に見たり読んだりして、好きなものへの理解をどんどん深め、その過程を楽しむ。SF作品をきっかけにして物理学に興味を持ったり、ファンタジー作品への理解欲求が宗教や神話を学ぶことにつながったりする。そうして、充実したオタ活を満喫するのだ。

しかしオタクに憧れる若者たちは、拠りどころとしての“充実したオタ活”を手に入れることを、まず目的に設定する。

 

「だから正確に言えば、“オタクになりたい”んじゃなくて、“拠りどころになりうる、好きなものが欲しい”だし、それは“個性的な自分でありたい”だし、一番正直に言うなら“自己紹介欄に書く要素が欲しい”なんですよね」(森永氏)

エントリーシートの見栄えをよくするために、ボランティア活動に参加したり、サークルの幹部をやったりするのと同じだ。

「今の子にとって“好きなものや、打ち込めるものがない”というのは、それだけでものすごいプレッシャーなんです。高校2年くらいまでに、親や学校から『やりたいことや興味があることを絞れ』って言われまくりますから。昔の若者は、彼氏や彼女のいないことがプレッシャーでしたが、今の若者は打ち込める趣味や好きなことがないこと、つまり“推しがいないこと”がプレッシャーになっています」(森永氏)

なにやら、「好きな人はいないけど、早く結婚したい」の類いに通じるものがある。あるいは、「今やりたいことはないけど、何かはしたい。だからこのサロンに入会しました」のほうが近いだろうか。

では、オタクに憧れるにもかかわらず、彼らが「膨大な時間を費やして何百本、何千本もの作品を観たり読んだりすることを嫌う」のはなぜか。次回#3では、倍速視聴習慣と密接な関係にあるその点にフォーカスする。

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