ふたりの年寄り相手に小学生女子の葛藤

母と伯母の介護記事でも書いたが、母がデイサービスから帰宅したとき私が不在だと、老人二人を娘がケアすることになってしまった。ケアと言っても、危ないことをしないかどうか、ちょっと確認するだけだ。私が帰宅するまでのことだから、その程度ならなんとかなるか、と安易に考えていた。
ある夕方、私が職場からなかなか出られないことがあった。早く帰ってやらなければ。焦っているところへ、携帯が鳴った。娘からである。

「どうしたの?」
「いつごろ帰ってこられるの?」

娘の声は湿っている。半べそだ。何があったのか?
「おばあちゃんが登志子さんにお餅を食べさせようとしていたの。しかも、海苔巻いて。だから、お餅はのどに詰まるからダメだよって言ったの」

そうかそうか。
「そしたら、おばあちゃんが、『誰だって食べたいものを食べればいいんだよ。食べたいって言うから焼いてやったんだ。子どもは黙ってなさい!』ってどなった!」

一気にそこまで吐き出すと、娘は爆発した。
「もうやだ! ボケ老人なんか、だいっきらいだ!」
受話器の向こうで号泣している。

まだ小学生だった上松さんの娘も、認知症の祖母ふたりに振り回されてしまった(写真の人物は本文と関係ありません)Photo by iStock
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娘をなだめ、携帯を切ってから義母に電話をかけた。二人とも、磯辺焼きにはまだ手を付けていなかった。

「お義母さん、お餅を焼いてくださったそうで。でも、登志子にはお餅、食べさせないでください」
すると向こうから、不満そうな声が聞こえた。
「だって、お餅食べるかって聞いたら食べたいって言うからさー。こっちは親切で焼いてあげたんだよ」
予想どおりの返答である。

「登志子は、もう噛む力も飲み込む力も弱くなっていて、ちゃんと食べられません。大きいお餅は無理です。しかも、海苔を巻いたものは口の中やのどにくっついて危ないんです。よく年末とかに、餅でのどを詰まらせて死んじゃうお年寄りのニュースありますよね。そういうふうになっちゃうかもしれないんです。母が目の前で死んじゃったら困るでしょう?」

ゆっくり、噛んで含めるように言い聞かせると、
「はあ、そうなの。知らなかったからさー」
とりあえず、窒息の心配はなくなった。

このときはこれで済んだ。しかし、年寄りたちは事あるごとに娘を「子どものくせに」と糾弾した。義母が責め始めると、母までがそれに加わった。ローティーンの娘は深く傷つけられた。特に、昔はあんなに自分を尊重してくれた大好きな「登志子さん」が、まるで敵を見るような目つきで自分を見ることにショックを受けていた。
老人たちのケアも大切だが、娘の心を守る方策を、なんとしても講じなければならなかった。