“マスク”に覆われた不平等…「コロナ禍の教育格差」を直視しない“深刻すぎる”日本の実態

苅谷 剛彦 プロフィール

いずれの報告も、生徒の家庭的な背景、とりわけ社会経済的な背景の違いによって、コロナの感染拡大や学校閉鎖の影響が異なり、それは生徒間の学習成果の差異の拡大としてあらわれることを実証的に示した研究の成果である。

しかも、学術論文として発表されたものではない。いずれも広く社会に向け発表されたレポートである。

また、その結果の一部は、英国の有力紙でも紹介された。たとえばGuardian紙ではNFERの報告書を紹介する記事のなかで、社会経済的に不利な家庭出身の生徒に、より強い負の影響が出ていることを指摘するとともに、2021年初頭の再度の学校閉鎖によってその傾向がさらに悪化するだろうとの専門家のコメントを紹介している*3

前述の通り、これらの報告書は、日本とほぼ同じ時期・期間の学校閉鎖が生徒の学習に及ぼした影響について、既存データとの比較によって測定したものだ。

しかも、学校閉鎖の影響が生徒の社会経済的な背景により異なることまで数値で示していて、コロナ禍の影響が不平等を拡大させるという問題に関して、社会に向けて注意を喚起している。この両国間の違いは「感染者の数が違うから」では済まされないだろう。

 

「日常」のなかで隠される問題

日本で全国一斉の休校措置がとられたのはパンデミックの初期段階のみ。その後は、緊急事態宣言が出されても、該当する地域で広範囲な規模での休校措置がとられることはなかった。

初期は一斉休校が要請された/photo by gettyimages
 

ICTを用いたリモートによる学習を進めるよりも、日本の学校は、対面での授業に戻ることに懸命であった。学校では、低学年を含めマスクの着用や手洗いを徹底し、給食の際にはおしゃべりをせず黙々と食べる。

話し合いのような授業でも、社会的距離をとりながら、感染予防を徹底する。学校行事の一部が中止されたり、やり方を変更したりすることはあっても、日本の学校は「日常」に戻ることを優先した。

結果だけ見れば休校期間が国際的に見ると短期間で済んだこと、さらには学習の遅れを取り戻そうとする現場の底力で、事なきを得たのかもしれない。

だが、実態として学習の遅れがどれだけのものであったか、ましてやそれが生徒たちの家庭的背景の違いによってどのように影響したかについては、正確に知る由もない。

早めに的確な手立てを施すには迅速で正確な実態把握が不可欠だ。

にもかかわらず、日本で多額の税金を使ってほぼ毎年行われている全国学力・学習状況調査は変化を捉える設計で行われていない。そのために、今回のような緊急事態に直面した際に、学習の遅れを測定するためのデータとして使うこともできなかった。

学習評価の専門家はそのような調査設計(項目反応理論を応用したテスト開発)を提唱してきたが、その提言に従い、異なる時点間の比較を可能にするデータを構築するための方法を取り入れてこなかったのである。

その結果、莫大な税金を投入してきた全国学力テストは、社会の変化に対応するための政策研究に資するデータとしては、役立たずであったと言っても過言ではない。

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