保険診療として行われるようになった治療

今、双胎間輸血症候群のレーザー手術ができる病院は全国に10カ所程度となり、年間200~250件の手術が保険診療として行われている。樽井さんのような母たちの勇気によって積み上げられた診療データが、国にこの手術の価値を認めさせた結果だ。

中田雅彦医師。双胎間輸血症候群のような、新生児医療では救いきれない子を多数診た経験から胎児治療を志し、約20年になる 写真/Zoom画面より河合蘭撮影
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中田雅彦医師も、現在東邦大学教授として東京都大田区の大森病院で多くのレーザー手術を手掛け続けている。この手術の治療成績は2人とも助かる率が8割、少なくとも一人が助かる率は95%を超えた。樽井さんが手術を受けた時代より、成績はさらに上がっている。

中田医師によると、これは世界でもトップクラスの成績だ。
「成績が上がっている大きな理由のひとつは、双胎間輸血症候群のレーザー手術が全国的に知られたということです。それに伴って、双子のふたりが胎盤を共有している『一絨毛膜性双胎』のリスクも広く認識されてきました。それまでは、双子の中に特にリスクが高い双子があるということは、あまり知られていませんでした」

今では、10例に1例は双胎間輸血症候群を起こす一絨毛膜性双胎は、小規模なクリニックの妊婦健診でも、他の双子としっかり区別されるようになった。都市部などでは、レーザー手術ができる病院へあらかじめ転院しておくケースも多い。
「超音波検査の性能も良くなり、胎児の血流を詳細に観察できるようになって、手術しなければ危ないケースを早く見つけることができるようになりました。樽井さんがレーザー手術を受けた時代より今の方が、早めに手を打てるようになっています」

胎児鏡で見えた胎児と、胎児の手。そこに確かにいる、生まれてからでは手遅れになってしまう子どもたちを胎児治療は救う 写真提供/中田雅彦医師

ただ、その結果、中田医師のもとには、地域一円の一絨毛膜性双胎が集まるようになった。中田医師の負担は重くなっている。双子の診察は、2人分の胎児を診ることになり、2倍の時間がかかるが、妊婦健診で支払われる自治体の公的補助金は一人の赤ちゃんと同じ金額だ。さらに双子は、別料金による詳細な超音波検査が必要になるが、日本では胎児の精密な超音波検査は自費診療で、補助金を出している自治体は稀だ。

「双子のお母さんたちは、この少子化の時代に、2人も産んでくれる女性たちなんです。そして、実は一絨毛膜性の双子は増加しているのです」

体外受精、顕微授精の保険適用が注目を集めているが、それが一卵性の双子を増やす妊娠方法であるという事実は、ほとんど知られていない。中田医師は、国が高度な不妊治療を積極的に支援すること自体は良いことだと考えている。ただ、妊娠した後のことも考えてほしい、と思わざるを得ない。

でも、今回美侑さんが聖火ランナーとなり、あのようなコマーシャルも流れたことは中田医師にとっても大きな励みになった。
「うれしかったですね。そして、お母さんやご家族は、こんな風に、亡くなった子の事も忘れずに生きていくんだな、ということも教えてもらいました
15年の歳月を経たエールを受け取り、中田医師は救える子をもっと救いたいという思い、そして亡くなった子に対しても注がれ続ける家族の愛情に対する深い敬意を新たにしていた。

試合前にリンクを見つめる美侑さん――継がれた命の重みを、生まれながらにして知っている少女。 写真提供/樽井美沙さん
河合蘭さん連載「出生前診断と母たち」今までの記事はこちら

日本で胎児治療に取り組んでいる病院は、下記から探すことができます。
日本胎児治療グループ
https://fetusjapan.jp/implementation_facility?fbclid=IwAR3-H3WFaD6UsRIFDtXAYeOYcLmCN7HMAB02nMIeWtLUSWBb4knoK8GBEqg