胎内でずっと一緒にいたふたり

樽井さんは、この妊娠を継続すること自体を断念するという方法もとれなかったわけではない。中田医師と樽井さんが出会ったのは妊娠16週。日本では妊娠22週未満であれば人工妊娠中絶が可能だ。
胎児は、たとえ治療が可能だとしても、胎児が子宮の中にいる限り、治療は健康な母体を傷つけることになる。それは、母親に強制されるものではないだろう。実際に、地元の医師は、自分が双胎間輸血症候群と診断した妊婦の中には妊娠継続を断念した人もいるという話を樽井さんにしたそうだ。

「その先生は、私に『やめてもいいんだよ』と教えてくれたんだと思います。ただ私は、あきらめようという気持ちはありませんでした。それなら、できる最大のことをしないと、きっと後で後悔するということが自分でわかっていたんです」

妊娠11週で初めて撮った超音波写真。この時期には、まだ大きさに差はなく、2人はぴったりとくっついていた 写真提供/樽井美沙さん
  妊娠13週の超音波写真。すでに2人の大きさは明らかに違ってきていた。(写真提供・樽井さん)
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樽井さんの手術は、あっという間のできごとだった。山口で説明を聞いて帰って来た数日後に「双胎間輸血症候群である」と診断する学会基準を満たす状態になり、翌朝に山口に再び行って午後には手術となった。

手術の経過は順調だったが、手術から三日目の朝、心拍を聴取したところ、供血児だった方の赤ちゃんの心拍がなくなっていた。
それは、命の灯火が確かにひとつ消えた出来事ではあったけれど、何とも不思議な死だった。まだ生きている子が子宮の中にいるために、通常の胎内死亡でおこなれわるような胎児を出す処置はできないのだ。親が亡骸を抱くこともなく、亡くなった赤ちゃんの身体は、分娩に至るまでずっと樽井さんの子宮の中にあり、母と姉妹はずっと一緒だった。