トニー・シェイ〔Zappos.com CEO〕アマゾンが欲しがった靴のネット通販経営者はツイッターフォロワー170万人をどう生かしたか

セオリー

「店で靴を何足も試して合わなければ店に戻す。それと同じです。試着料など取る店はありません」

核となる価値観は絶対に揺るがせない

 前述したように、マイクロソフトにリンクイクスチェンジが一見成功裡に売却されたとき、社員は100人余にふくれあがっていた。

 当初5、6人の立ち上げ時に味わった、時間や曜日を忘れて仕事に没頭し、デスクの下で眠りこけるような圧倒的な興奮の日常はすでに消えさり、その頃トニーには、毎朝、目覚まし時計の音を何度も消してはベッドに潜り込む一種の"出社拒否"状態が続いていた。

「もう会社が楽しくないことに気づいたのです。自分が作った会社に行きたくないというのは不思議な感覚でした」

 結局それがリンクイクスチェンジの売却につながった。利益を追求する情熱はあったが、文化がなかった。生きる意味の追求がなかった。親しい友人に会いに行くように今日も会社に気軽にでかける、というような企業文化は作れないものだろうか?

 そこでトニーはザッポス全社員にメールを発し、"ザッポニアン(ザッポスらしい人のこと)"とはいかなる人なのか、という意見を求めた。それぞれが理想のモデルとする仲間の特性を手がかりに挙げた定義はまず37項目に集約された。

 それがさらに煮詰められて'06年2月、10項目に昇華された。トニーと全社員にとって一年がかりの作業だった。この"コア・ヴァリュー"こそが最も重要な独自の企業文化として、今に至る入社選考、社員教育、解雇などすべての基準となるザッポスの黄金律となったのである(ザッポスのコア・ヴァリュー10項目は8ページ参照)。

「いくらザッポスにふさわしいスキルの持ち主でもこの文化に合わなければ入社できないし、またいくら仕事で優れた実績をあげてもこの文化基準に合わない人は解雇されます」
  とトニーは語る。

 この企業文化は人間個人に照らして考えればその性格のようなもので、変わることがない。企業にとって文化は人間の性格がそうであるように、宿命なのだ。

「ザッポスの成長に伴って事業の定義や戦略は変わるでしょうが、コア・ヴァリューはいつも同じであって欲しい。社員一人ひとりがこのコア・ヴァリューに基づいて毎週何か一つを改善できれば、この会社には1年間で5万もの小さな変化が起きることになる。まとまれば大変革につながるでしょう」

 ハーバード卒業後、弱冠24歳で巨億の財をなした青年が、それに満たされず、次は人生の意味の実現をサービス業に求めたからこそ生まれた必然の所産、それがザッポスの優れた企業文化と言えるのかもしれない。事実、トニーの年収は、CEOにもかかわらずわずか3万6000ドルと驚くほど安い。「わたしの場合、仕事は金が目当てではない。自分の生きがいのためにCEOをやっているのです」

社員が成長と学びを追求することができる会社

 金のためでも肩書のためでもなくサービス・ビジネスを天職として自己実現をはかるという企業文化は、コア・ヴァリューの「成長と学びを追求しなさい」という一項を重視することに繋がっている。