トニー・シェイ〔Zappos.com CEO〕アマゾンが欲しがった靴のネット通販経営者はツイッターフォロワー170万人をどう生かしたか

セオリー

 だからこそ、買収しても何一つ変えることなくザッポスはザッポスであり続けることになったのである。

カスタマー・サービスは部署ではなく"会社の使命"

 さて、そのトニーが描く企業文化の総本山である本社に入ってみると、そこは確かにある種の楽しさに満ちていた。社員は、二の腕の大きなタトゥー、鼻や唇につけたピアス、色とりどりに逆立てた髪も目立つ。服装も実にラフだ。本社の見学者のために1日4回の社内ツアーが巡回するのだが、訪れる人の数もうなぎのぼりで、毎日平均100人以上が押し寄せるそうだ。

 ツアー客に社員は笑顔で話しかけてくる。訪問の記念にポラロイド撮影する部屋まであった。会社という場所を社員が楽しくクリエイトしているのがよく分かる。

 トニーは現在36歳、シンプルでラフなTシャツ姿の物静かな男だ。正装をする必要のないときはいつもこの格好だという。彼のスケジュールを聞いてみると、

「今朝は会社のカフェテリアでピザを自分で作って皆に食べてもらったんだ。スケジュールは毎日大きく変わっていて、最近はザッポスの企業文化に関する講演をして欲しいと呼ばれて、旅行に出ることが多いんです」という。

 若い頃から起業家精神旺盛で、ハーバード大学入学以前のハイスクール時代もスモールビジネスの工夫で小遣いには困らなかったそうだ。

「大学時代は学生寮にピザのグリルを開業して稼ぎました。ビジネスセンスは台湾系の両親の影響か、ですって? いや違います。父は化学工学者で母はソーシャルワーカー(社会福祉士)ですから」

 大学卒業後、オラクルに入社したが、退屈な仕事に飽きてすぐ退社。1996年、ウェブ広告を扱う会社『リンクイクスチェンジ』を創設してアッという間に成功を収め、'98年にはマイクロソフト社に2億6500万ドルで売却した。そこで得た資金で当初はアドバイザー兼投資家として'99年に産声を上げたばかりのザッポスに2000年から関与し、'99年から'08年の9年間で年商10億ドル企業に成長させた。

 ザッポスは、創業5年後に、社員約90名中75名を引き連れて、本社をカリフォルニア州のサンフランシスコから、ネバダ州のラスベガスへ移している。

(右下)ザッポスの訪問者が記念撮影するための部屋。兜は日本人見学客が、御礼にあとで送ってきたそう