6月末にトライしたい!
体の内側から祓ってくれる「お菓子」
コロナ禍で京都に行けないからといって、あるいは職場近くに茅の輪がないからといって、嘆くことなかれ。からだの内側からも祓おうと考えるのが京都の人々である。白い外郎(ういろう)の上に小豆の乗った三角形のお菓子がそれで、名を「水無月」という。この「夏越の祓」定番菓子は最近、東京でも売られているから、見たことがあるだろう。三角形の白い外郎は切り出した氷を表すらしい。
かつて宮中の貴族は「氷室の節会(ひむろのせちえ)」に氷を食べて暑気払いをした。山の洞窟に氷室を作り、冬の間に蓄えていた天然の雪氷を御所まで運んで天皇に献上したという。御所車に乗せてうやうやしげに運ばれる氷は、市井の人々には高値の花。「氷」への憧れを外郎に、その上に悪魔祓いの小豆を載せて「水無月」というお菓子に仕立て上げて味わったという。
実はこの通説には謎が多く、頼りになるのは、江戸時代、麦を用いた蒸し餅をねじって小豆を載せた「水無月蒸餅」を宮中に収めたという虎屋の記録くらいだ。「氷室の節会」と合体させて三角形になった時代などはよくわからない。確かなのは、今日に至るまで、夏越の祓定番菓子として不動の地位を保っていることだ。
京都に来て最初の6月30日、訪れる先々で「水無月」が出てきて驚いた。毎年毎年、どこもかしこも、「水無月」だらけなのである。さすがに自分でも飽きた気がする昨今だが、しかし、一度も食べないとなれば、具合が悪い。最低ひとつは、6月末に「水無月」を口にしたくなる。
もしも買いそびれても、水無月は作るのも簡単だ。粉の配分などレシピは色々出ているので、ググって試してみて。あるいは、かき氷やクラッシュした氷の上に小豆を載せて食べるのでもよいかもしれない。本来、白い部分は天然の雪氷を模しているのだから、かき氷のほうが宮中の暑気払いに近づける。
さて、7月になると、京都はいよいよ祇園祭。1ヵ月かけて疫病退散の祈りが始まる。
文/秋尾沙戸子
名古屋生まれ、東京育ち、のち京都暮らし。
イラスト/東村アキコ
1975年生まれ。漫画家。宮崎県出身。1999年『ぶ~
連載【アキオとアキコの京都女磨き】
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