映画やドラマを観て「わかんなかった」という感想が増えた理由

観客が“幼稚”になったのか?
稲田 豊史 プロフィール

SNSで「バカでも言える感想」が可視化された?

ただ、「昔よりも観客が幼稚化したから、作り手はそれに合わせて説明過多の作品を量産するようになった」と結論づけるのは、早計かもしれない。そうではなく、昔も今もある程度の“幼稚な観客”の比率は変わらず、単に彼らのあげる声が目立つようになっただけ、だとしたら? たとえば、SNSが“幼稚な観客”の声を可視化したのだとしたら?

20年前、30年前にも、“幼稚な観客”はたくさんいたはずだ。しかし当時は、彼らが「理解できないことを作品のせいにする」手段が、世の中に存在していなかった。

2000年代初頭から、ブログや匿名掲示板などはあったが、まだまだ一部の人間が能動的に「読みに行く」ものであり、まとまった数の“民意”にはなりえなかった。それが2000年代後半以降、TwitterをはじめとしたSNSが誕生・普及したことで、どんな人もわけ隔てなく、無料で気軽に、作品の感想をつぶやけるようになった。

そこでもっとも言いやすいのが、「わかんなかった(だから、つまらない)」だ。論理的な説明やエビデンスがいらない。そんな話を、映画宣伝マンの知り合いに投げてみたところ、毒舌家の彼は言った。「バカでも言える感想ですね、それ」と。

かつては可視化されていなかった“幼稚な観客”、あるいは“思考を止めている観客”でも言える程度の感想が、不特定多数に向けて爆発的な拡散力で可視化されるようになった。そこに相応の人数が同調し、まとまった数になって製作委員会や制作スタッフの目に飛び込めば、彼らがその“民意”を完全に無視することはできないだろう。結果、「わかんなかった」と言われることを恐れるあまり、脚本の説明セリフが多くなっていく。

そんな背景が、想像できはしないだろうか。

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