2018年、ジュノン・スーパーボーイ・コンテストへの出場を機に、“かわいすぎる男子高校生”として一躍注目を集めた井手上漠さん。
漠さんは、身体も戸籍も性別は男性だ。しかし、心は男性でもあり、女性でもある一方で、そのどちらでもないと自認している。

今年3月、高校を卒業し、生まれ育った隠岐の島から上京。4月には、初のフォトエッセイ『normal?』を上梓した。
「“普通”とは何なのか。自分の中の“普通”と向き合い考えてみるきっかけになってほしい」という願いがこめられた本書には、漠さんが“普通”ではない自分に悩み、葛藤してきた半生が綴られている。

悩み、葛藤するからこそ、自分を肯定できないと、とても辛いことになってしまう。しかし漠さんの今があるのは、確固たる自己肯定感を持てるようになったからではないかと、『normal?』を読むと感じるのだ。インタビュー第1回目では、漠さんに前向きに生きるきっかけを与えてくれた母の存在、18年間の関わり方について詳しく語ってもらった。

撮影/山本倫子
井手上漠(いでがみ・ばく)2003年1月20日生まれ。島根県隠岐郡海士町出身。15歳でジュノン・スーパーボーイ・コンテスト”DDセルフプロデュース賞”を受賞し脚光を浴びる。以降、数多くのメディアに登場する他、サカナクションのMV『モス』への出演に抜擢されるなど多方面で活躍。現在はモデル業を中心に活動。
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「普通の子」になるために自分を偽っていた

2021年5月9日の母の日。井手上漠さんは、お母さんからのLINEメッセージを読んで号泣したという。

どんなメッセージだったのかをお伝えする前に、少しだけ漠さんのこれまでのことをふりかえろう。

物心ついた頃から、かわいいもの、美しいものに心をときめかせていたという漠さん。仮面ライダーよりもプリキュアに憧れ、戦隊ヒーローごっこではなくリカちゃん人形で遊ぶのが好きだった。幼い頃は、それが当たり前のことだと信じきっていたが、小学校5年生ぐらいから、周囲の異変を感じるようになる。
「この頃から着替えが男女別々になるなど、男か女かで分かれることが増えて。私は仲良しの友達は女の子ばかりなのに、着替えの時は男子と一緒という状況が増え、周りの子たちは違和感を覚えたのでしょう。次第に“気持ち悪くない?”と言われることが増えてきました」

鋭利な刃物のように突き刺さる“なんだか変わってる”“おかしな子”という周囲の目線。耐えられなくなった漠さんは、“普通の子”になるしかないと考え、伸ばしていた髪を切り、服装もかわいらしいものから、シンプルなTシャツ&デニムに変えた。
「馬鹿にされることはなくなったけれど、偽りの自分で生きるのは苦しかったです。鏡を見るたびに自分が自分ではないような気がして……。何をしていてもつまらなくて、鮮やかな色彩を失ったモノクロの世界で生きているようでした」

その日々が変わったのは、中学2年生の時。母に、本当の自分について初めて打ち明けたことがきっかけだったという。
「母に洗いざらい打ち明けたんです。本当はかわいい服を着たり、長い髪のほうが自分に似合っていると思っていること。自分は変わっているかもしれないと悩み、何とか“普通の子”になろうともがいていたこと……。それを聞いた母は『漠は漠のままでいいんだよ。ありのままの漠で生きればいい』と言ってくれました。

本当の自分を受け止めてもらえたことが心の底から嬉しくて、大きな安心感に包まれました。それは私が自分らしく生きるための原動力になったんです」

漠さんが通っていた中学校の講堂。ここで弁論大会に出場したことが、大きなきっかけとなった 撮影:三宮幹史/井手上漠フォトエッセイ 『normal?』 より