2021.07.12
# AI

〈あなたの顔、替えます〉リアル動画の改変技術、ディープフェイクでここまで可能に

ショートショートで学ぶ機械学習【2】
田口 善弘 プロフィール

動画に映っていたのはトム・クルーズ。動画の中でトム・クルーズは実に自然に振舞っていたが、この動画に出演していたのはトム・クルーズの物まねをさせたら右に出るものが無い、という俳優で、その彼の動画に顔だけをトム・クルーズにすり替えただけの動画なのだ。もともとしぐさなどはトム・クルーズそっくりだから、顔を置き換えるだけでトム・クルーズのフェイク動画が完成する、というわけだ。

そうは言っても、顔の部分、トム・クルーズに演技してもらうわけにはいかない。ここに機械学習が使われた。トム・クルーズの顔の画像と俳優の顔の動画を入力するとトム・クルーズの顔になって出てくる、という機械学習のプログラムを作ったのだ。

これは決して簡単なことではなく、作成者はこのプログラムを学習させるのに2ヵ月(!)も計算機を回さなくてはいけなかったと述懐している。だから、現状ではいくらトムがアリスを愛していても会社を追い出されるまでの1時間でフェイク動画を作ってブレンダに送って、そこからアリスに送らせることは無理だ。

オンライン普及で、リアルが再評価されるかも!?

だが、今は無理でも、それは程度の問題でしかないのは間違いない。計算機もプログラムの技術もどんどん進化している。なにより、ほんの十年前までこんなことができるとは誰も思ってはいなかったのだ。

この動画を作ったChris Umeのサイトには検索すれば簡単にたどり着ける。

Ume氏によるフェイク動画の概要解説

そこにはコロナ禍について警告を発するアインシュタインとか、「貧乏人は貧乏人のままで金持ちはもっと金持ちになるような政策を実行します」と宣言するトランプ前アメリカ大統領の動画など、あり得ない動画が多数置かれている。その目的はあくまで、技術の最先端を喧伝するためのものであり、ビデオにもちゃんとリアルじゃないと書き込まれている。

だが、悪意ある人物が悪意をもって、他人をだますためにディープフェイク技術を利用しないという保証はない。冒頭の小話みたいに、オー・ヘンリーばりのほのぼのエピソードだけにディープフェイク技術が使われるだろうなどと信じられる人は悪いけど、頭の中がお花畑の人だけなんじゃないかと思わざるを得ない。

百聞は一見にしかず、ということわざがある。だが、その一見から動画を除かないといけなくなる日はそれほど遠くはないだろう。肉眼で見たもの以外は全部フェイク動画かもしれないと疑ってかからないといけない時代はもう目の前だ。折悪しくコロナ禍でリアルな接触は控えてオンラインで交流することが推奨される世の中になってしまった。

ワクチンが普及してコロナ禍がある程度収まれば、前の状態に戻るだろうけど、一度味を占めてしまったオンラインの経済性の前には交通機関を使ってリアルに出張しないといけないようなタスクにはそれなりの理由づけが要る時代になるかもしれない。

そんな時代、ひょっとしたら「ディープフェイクかもしれないから対面で」という理由は一周回ってリアルで会うことの重要な動機付けになる時代が来るかもしれない、と思うとやっぱり世の中は皮肉だな、と思う。

【イラスト】ディープフェイクを避けるために、あえてリアル対面!? gettyimages

好評の『ショートショートで学ぶ機械学習』

前回の〈あなたの才能、完コピします〉はこちらから

次回〈あなたの心、読みます〉はこちらから

関連記事