〈あなたの顔、替えます〉リアル動画の改変技術、ディープフェイクでここまで可能に

ショートショートで学ぶ機械学習【2】

近年、著しい進歩を続ける機械学習。センター入試の英語の試験では機械学習を使うことで、200満点中185点をとることに成功し、将棋や囲碁ではもはや人間が太刀打ちできないレベルの能力を獲得。画像処理にいたっては、フェイク画像はもちろんのこと、オリジナルのキャラクターを造形できるところまで到達している。

今後のビジネスや科学研究を続けていくうえでもはや無視できない存在になりつつある「機械学習」だが、言葉ばかりが先走りして、その本質を理解している人はごくわずかだ。「機械学習」とはいかなるものか、社会にどのような変化をもたらすのか。機械学習の専門家であり、科学出版賞を受賞した書き手として知られる田口善弘氏が、ショートショートで「機械学習」がもたらす未来世界を描く。

あなたの顔、替えます

アリスは、窓の外の素晴らしい夜景を見ながら、ため息をついた。この10階のマンションにはそれなりの出費をして入居したし、いつもだったら、窓からの眺めはアリスに満足を与えてくれる。隣にトムがいてくれればだけれど……。

トムと3日も会えていない。たった3日、などという人間はきっと本当に人を好きになったことが無い人間だ。3日前に逢瀬をドタキャンされてから、トムからは音沙汰がない。SNSを通じてのアクセスにも既読がつかないし、こんなことは一度も無かった。

トムのマンションにも行ってみたが、オートロックのマンションなので建物に立ち入ることさえ敵わない。勿論、外から何度もインターフォンを通じて呼びかけたが音沙汰無し。会社に行ってみようかと何度も思ったが、恋人ともめているような男だと誤解されたらきっとトムの出世に響くのではないか、と思うと踏み切れなかった。

【イラスト】アリスはトムと3日も会っていなかった

そもそも、ここまでなんでもオンラインで済むようになってしまうと、リアルで会おうとすること自体、なんらかの緊急事態だと思われかねない。便利なようで不便な世の中になった、とアリスはため息をつく。

と、SNSのメッセンジャーが着信音を鳴らす。おもむろに取り上げたスマホにはブレンダからの着信を知らせるシグナルが瞬いていた。ブレンダ、アリスの唯一無二の親友。トムと知り合うまでは2日と空けずあったものだし、そもそも、一緒に暮らしていたのもそれほど前のことではない。トムと付き合うようになってから、随分とご無沙汰してしまって心がとがめる。

(こんなときこそブレンダにトムのことを相談すれば)

我ながら虫のいい話だと思いながら、メッセージを開く。

「これをみて」

というメッセージとビデオリンク。アリスは眉をひそめた。ブレンダはスマホのビデオを送りつけてきたことなんて一度もない。どっちかというと文章派で、いったいいつこれだけ書いているんだと思うほどの長いメッセージをがんがん送り付けてくる方だ。こんな短いメッセージをもらった記憶も全くない。

いぶかりながらビデオリンクをクリックする。動画の再生が始まった途端、全身から血の気が引いた。こんな一瞬で体から血が抜けるわけない、という思いが心をよぎるアリスの目に映っていたのはブレンダの部屋の寝室だった。

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