本当に…アラーの教えは絶対だった

暫く沈黙が続いた後、アブーは突然天を見上げて何か呪文のようなものを唱え始めた。どうやらアラーの神と対話している様子。そして、ついに結論が出た。

「ごめん。僕は何て酷いことをしようとしたんだ。本当に恥ずかしいよ。アラーの教えに反することをしようとしていたなんて」と、一転して自分を責め始めた。

『大丈夫、誰にでも間違いはあるから』と、内心ドキドキしながらなぐさめ、宿に向かってもらうように再度頼みこむ。彼はアラーを裏切ろうとしていた自分に失望したのか、うっすらと眼に涙を浮かべ、何度も謝りながらようやく宿に向かってくれた。こうしてアラーの神によって危機から救われた。……神様ありがとう!

2006年世界遺産に登録された「ファラジ・ダリス」の水路。地下から湧き出る水は一度も枯れたことはない。写真提供/歩りえこ

無事、宿の近くに着き、アブーにお礼を言って車を降りた頃にはすっかり夜も更けていた。宿に戻ると昼と同じく、男性客はジロジロ見てくるし、女性たちも睨み付けてくる。しかも昼間はすっぴんだった女性たちが、派手メイクしていることも気になった。

この宿はもしかして……。ちょっと嫌な予感がしながら部屋に戻るとすぐに、昼間食べ物をくれた老人がミルク片手に再びノックしてきた。ドアを開けると老人は無言でミルクを渡し、部屋にツカツカと入ると、驚くことに、私のベッドにもぐりこみ始めたのだ

部屋から出て行ってもらうようお願いすると、なんとポケットから紙幣を差し出してきた。部屋へ尋ねて来た理由、それは私を買うためだった。男性客や女性たち、そしてこの老人の行動といい、どんな宿なのかやっとわかった。そう、ここは紛れもなく売春宿だ

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老人をやっとのことで追い出すと、部屋の前に10人ほどのオマーン人男性が、紙幣を持って列をなしていた。先ほど見かけた女性たちは鬼の形相でこっちを見ている。そうか、新入りの売春婦が入ってきたと思って睨みつけているのかも。

慌ててドアを閉めて鍵をかけると、部屋の電話が鳴り出した。「How much?」すぐに切ると、またベルが鳴る。20回ほど連続でベルが鳴ったと同時に電話線ごと引っこ抜き、ドアを開けてこう叫んだ。「ラクダ千頭プリーズ!」アラブ国でラクダは家と同じ位に価値が高い。男たちは要望が高過ぎることを理解すると、次々に去って行った。

オマーンでは殆どの男性がいつも帽子を被っている。写真提供/歩りえこ