誠実そうな軍人に観光案内してもらうが…

首都マスカットの街を歩くと、男性も女性も民族衣装を纏って歩いていた。男性は丸い帽子を頭にちょこんとのせており、女性は他の中東諸国同様に目以外はすべて黒い布で覆い隠している。

アラブのエキゾチックな雰囲気が味わえる首都マスカットのマトラ・スーク(市場)。観光客が少ないためか、エジプトなどのスークに比べると押し売りは非常に少ない。写真提供/歩りえこ

スーク(市場)で土産物を物色中、オマーンの軍人だという20代前半位の青年に話しかけられた。「オマーンは電車やバスが殆ど走ってない。丁度休暇中だから、車で案内してあげようか?」と言う。

確かに観光地に行く公共交通手段が見当たらないので、正直困っていたところだ。青年は英語を話せるし、物腰も穏やかで誠実そうな瞳をしている。何よりイスラム教において婚前交渉は絶対禁止。

……とはいえ不安だ。そんな雰囲気を悟ってか、身分証まで見せてきた。アブー(仮名)23歳。数十分ほどたわいのない会話を続けていたが、そのピュアな瞳を信じることに決めた。車に乗せてもらい、オマーンの首都マスカットの見所を案内してもらうことになったのだ。彼は観光名所を英語でガイドしながら、各地で記念写真を撮ってくれたりと大助かり。

なんだかんだで時間が経ち、暗くなってきたのでそろそろ宿に帰りたいと言うと「最後にとっておきの絶景ポイントに案内してあげるよ」と、高台に車を走らせた。辺りが暗くなると急に不安になるもので、内心では早く宿に帰りたかったが折角案内してくれたし、最後にその絶景を見て帰ることにした。

-AD-

人がいない高台にオマーン軍人と2人、不安な気持ちはますます強くなる。絶景だというポイントも大した景色ではなく、ますます怖くなってきた。心臓の鼓動が早くなるのを感じながら「お腹が空いたし疲れた。早く宿に戻りたい」と促す。すると、車に乗った瞬間……ガバッと突然押し倒された。

やっぱり車に乗るんじゃなかった……ホントに大馬鹿者だ。叫びたいのに恐怖のあまり声が出ない。例え叫んだとしても、こんな誰もいない高台では意味がない。まさに絶体絶命の大ピンチ。脳裏に浮かんだのは“レイプ”の3文字だ。

どうにかしてこの危機から脱出しなければ……と、変にアタマが冷静に働いてきた。相手は男性、しかも軍人だ。力で勝負しても勝ち目はない。何かの拍子で奇跡的に逃げられたとしても、一人ではここから宿までは徒歩で帰れないだろう。

マトラ・スークにある美しいステンドグラスには短剣(ハンジャル)の模様がたくさん入っている。写真提供/歩りえこ