約13年間のOL生活からフリーライターに転身、「どこでも働ける自由」を手に入れ、2020年からデンマーク・フィンランドを拠点に生活する小林香織さんの連載。

この連載で紹介した、精子提供によって2人の子どもを授かったデンマーク人のレズビアンカップルのエピソードでは、諸条件に当てはまればレズビアンカップルや独身女性も無料で不妊治療を受けられることを伝えた。しかし、ゲイカップルにいたってはデンマーク国内の事情がまったく異なる。彼らが子どもを持つには一言では語れない苦難があり、「代理出産」を選べば法を犯すことにもなりえる。

コペンハーゲン大学の准教授であり、長年にわたり「代理出産を通じて子どもを持つゲイカップルの事情」を研究するMichael Nebeling Petersen(ミケル・ネイベリング・ピーターソン)さんは「代理出産を通じて子どもを持つことは、彼らにとって“唯一の希望”だ」と語る。ミケルさんに、デンマークのゲイカップルの代理出産事情を聞いた。

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金銭授受が伴う代理出産はデンマークで「違法」

デンマークに住むゲイカップルが子どもを持ちたいと願う場合、その選択肢は以下のいずれかが一般的となる。

1、レインボー・ファミリーの形成
2、養子縁組
3、海外での代理出産

ミケルさんによれば「養子縁組と代理出産は規制や条件が厳しく、レインボー・ファミリーの形成を通じて子どもを持つゲイカップルがもっとも多い」とのこと。これは、レズビアンやヘテロセクシュアル(異性愛者)の女性と一緒に子どもを持ち、3人以上で保護者になる家族形成の方法を指す。

「女性とゲイカップルの男性の間に恋愛関係はありません。通常は、女性とゲイカップルのどちらか一方が自宅でもできる人工授精を通じて妊娠し、女性が子どもを産みます。その後、生物学上の両親が親権を持ち、もう1人の男性は子どもとの養子縁組を通じて後見人になるステップを踏みます」

デンマークでは子どもの正式な保護者となれるのは2人までであることから、3人以上の保護者が存在するレインボー・ファミリーには養子縁組のプロセスが欠かせない。

同性愛者や女性が平等を訴える政治活動に興味を持ち、ジェンダー平等にまつわる研究を始めたミケルさん 写真/ミケルさん提供

血がつながらない子どもを養子にすることも不可能ではないが、ゲイカップルの場合は実現可能性が著しく低いそうだ。

「デンマークでは、2010年からゲイカップルの養子縁組が認められています。しかし、高福祉のこの国では養子に出される国内の子どもが極端に少ないために、海外の子どもを引き取ることになります。ただ、ゲイカップルへの養子縁組を認めていない国が多いために、実際はほとんど養子を得られません。私が知る限り、南アフリカだけがゲイカップルの養子縁組に同意しています」

デンマークのメディアでは、2014年にゲイカップルが初の養子を得たと報じており、それが南アフリカの子どもだった。(※1)

代理出産を通じた家族形成にも、数えきれないハードルが存在する。

「デンマークでは、代理母への報酬を伴わない代理出産であれば規制がありません。この場合、代理母は自身の卵子を使用して子どもを産みますが、子どもの認知はしない。そのため、代理出産を依頼したゲイカップルは養子縁組手続きを通じて、2人とも法律上の保護者になれる。しかし、このような商業的ではない形式の代理母を国内で見つけるのは不可能に近い。

一方、代理母となる女性が出産により報酬を得る商業的な代理出産は違法です。よって、ゲイカップルは代理店を通じた海外での代理出産を選択することになりますが、これもデンマークでは違法。それでも、この方法を選ぶゲイカップルがいるんです」

日本では現状、代理出産が認められていないが、法規制がないため海外で代理出産を通じて子どもを持っても罪に問われるわけではない。実例として、丸岡いずみさん・有村昆さん夫妻、向井亜紀さん・高田延彦さん夫妻が代理出産を通じて子どもを持ったことは広く知られている。

※1 https://www.thelocal.dk/20140721/gay-couple-become-first-in-denmark-to-adopt-from-abroad/