人々の信頼を体現するコミュニティマネー。豊かなお金の使い方を探るべく、4人の賢者が理想のコミュニティマネーを妄想しました。

樋口恭介が妄想
「神経通貨」

通貨はあなたと社会を結びつける。人の幸と不幸を分かつものが脳内を流れる神経伝達物質なのだとすれば、社会の幸と不幸を分かつものは、市場を流れる通貨の量だ。そして、通貨と神経伝達物質には相関関係がある。人が幸せを感じるとき、社会も幸せを感じており、社会が幸せを感じるとき、人も幸せを感じている。市場に通貨が溢れるとき、脳の中ではセロトニンが溢れ、脳の中でセロトニンが溢れるとき、市場に通貨が溢れ始める。論理的にはそうなる。

一つの思考実験をしよう。ここにあるのは神経伝達物質と通貨が結びついた社会である。比喩でも理論でもなく、実装として。その社会では文字通り、神経は直接市場に接続され、脳を流れる神経伝達物質の種別と量、そして通貨は、ブロックチェーンにも似た分散型台帳技術によって管理されている。そこでは神経伝達物質と通貨量はネットワーク内でバランスし、苦しみや悲しみを感じたときには通貨が発行される。あなたが何かに挫折したとき、失恋したとき、親しい人と別れたとき、あなたがこぼした涙の数だけ、あなたのウォレットに通貨が振り込まれる。

もちろんこれは荒唐無稽な妄想にすぎない。それは現存するどんな共同体でもなしえない。けれども不可能なこととも限らない。あなたは夢を見ることで、新たな現実を創り出すことができる。未来の都市へ、町へ、あるいは村へ。それとも、まだ見ぬ新たな共同体に向けて。

樋口恭介
ひぐち・きょうすけ/SF作家。2017年、『構造素子』が第5回ハヤカワSFコンテストで大賞を受賞し、作家デビュー。会社員としてコンサル業やベンチャー企業CSFOを務めながら執筆活動を行う。2020年、評論集『すべて名もなき未来』刊行。

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稲葉俊郎が妄想
「土に還る通貨」

地域通貨の本来のあり方とは、資本主義の発想に基づくものだと思っている。そして通貨とは、信頼関係の上に成り立つもの。では、共同体において信頼関係を成り立たせるものとは何だろう。その象徴のひとつが命であり、具体的には食を共有したコミュニティではないかと思う。たとえば、かつての農村コミュニティのように、共同の畑を耕し、そこが共同体の食を供給する土台としてある。故にお互いが信頼を寄せ合うことになるのではないだろうか。

地域通貨を成功させるための秘策は、循環にあると思う。そしてそのヒントは、自然界の中に存在する。自然の中で木が育ち、葉っぱが散り、土に還り、やがてそれが養分となり次の世代の葉を育てる。やがて成長した木は、薪などの燃料として暖を提供したり、箸や器などの素材となり、人々の暮らしのなかに息づき、新たな循環として作用する。そんな自然界の循環に準じるようなコミュニティマネーがあったら、素敵ではないだろうか。創造行為が伴わない通貨は、ただ消費するだけのものになってしまう。

木が何らかの創造を生み、貨幣的な役割をなし、人々の営みの中に循環していく。たとえば、日本には古くから「経木」という伝統の包装材がある。これが循環してお金のようになればいい。だから、地域で子供が生まれたら一人1本、木を植える。それを育て、経木、器、アート、薪など人が創造という手を加えて、地域内に巡回させる。そして役目を果たしたその通貨は、やがて土に還る。(談)

稲葉俊郎
いなば・としろう/医学博士。東京大学医学部付属病院循環器内科助教を経て、軽井沢病院総合診療科医長。伝統医療や民間医療を広く修め、伝統芸能や芸術などの分野と医療との接点を模索する。近著に『いのちは のちのいのちへ-新しい医療のかたち-』。