爬虫類の知られざる性決定のしくみ…たった数℃の違いが分ける「オス」と「メス」

温暖化はどのような影響を与えるのか
熊谷 玲美 プロフィール

温暖化は生物の「性」にどんな影響を与えるのか

フトアゴヒゲトカゲの性染色体は、進化によって最近獲得されたものだ。それでも今なお、温度によって性別が決まるしくみを維持しているのには理由があると考えられている。

フトアゴヒゲトカゲの繁殖シーズンは年1回だ。そのうちの暖かい時期にメスが生まれれば、すぐに成熟して同じシーズン中にまた卵を産むことができる。一方でオスは、気温が下がり始めるシーズン終わりに生まれて、次の繁殖期までに体を大きくしたほうが、他のオスとの争いに勝ち、子孫を残すのに都合がよい※8

温度によって性別が決まるしくみは、環境の変化に柔軟に対応し、種として生きのびるためのすぐれたしくみなのだろう。

ところが地球温暖化によって、気温や海水温、巣の中の温度が極端に上昇すると、つねにメスかオスのどちらかばかりが生まれてしまうかもしれない。

ウミガメでは温度が高いほどメスが多く生まれてくるが、オーストラリアのグレートバリアリーフでは、アオウミガメの子ガメの99%以上がメスだったという報告がある※9, 10。 

アオウミガメの産卵 Photo by bonafau/iStock

ミシシッピワニの場合、こうした性別の比率は、わずかな温度上昇にも敏感に反応するようだ。研究者らがミシシッピワニの生息地に分け入って、86ヵ所の巣の温度と、生まれてくるワニの性別を調べたところ、巣の温度が1℃ほど上昇するだけで、生まれてくるワニの性別比が変化した。さらに、巣の平均温度が1.1度から1.4度上昇すると、オスに偏ることがわかった※11

ミシシッピワニの幼体と卵 Photo by NPS

ウミガメのようにメスばかりになったり、ミシシッピワニのようにオスに偏ったりすれば、これまでどおりの繁殖ができなくなる。もともと生息環境が悪化しているところにそうした脅威が加われば、絶滅へのペースが加速してしまうかもしれない。

性別が気温によって決まるしくみが発見されたのは、1960年代と、それほど古い話ではない。生き物の体にはきっと、まだ知られていない予想外のしくみがあるだろう。その未知のしくみが人間の引き起こす温暖化にどのように反応するのか、予想するのはとうてい不可能だ。

【参考資料】
※1 https://lci.c.u-tokyo.ac.jp/200521.html
※2 https://sites.google.com/site/miyashinchi/home/research/tsd-in-reptiles
※3 https://www.nibb.ac.jp/press/2015/12/24.html
※4 https://www.forbes.com/sites/grrlscientist/2017/06/19/how-turning-up-the-heat-turns-male-bearded-dragons-into-females/
※5 https://www.nature.com/articles/523043a
※6 https://journals.plos.org/plosgenetics/article?id=10.1371/journal.pgen.1009465
※7 https://phys.org/news/2021-04-bearded-dragon-embryos-females-sex.html
※8 https://www.smithsonianmag.com/science-nature/bearded-dragons-may-become-females-thanks-either-chromosomes-or-hot-temperatures-180977516/
※9 https://oceanservice.noaa.gov/facts/temperature-dependent.html
※10 https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0960982217315397
※11 https://royalsocietypublishing.org/doi/10.1098/rspb.2020.0210

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