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毛沢東の中国を“別の国”へと一変させた鄧小平の「逆境者」人生

「社会主義市場経済」は発明だった

来たる7月1日に、中国共産党創建100周年を盛大に祝う中国。この牙を持った巨龍は、一体どこへ向かおうとしているのかーー。
先週5月11日に『中国の歴史11 巨龍の胎動 毛沢東vs.鄧小平』(講談社学術文庫)を上梓した中国共産党研究の第一人者・天児慧早稲田大学名誉教授と、現代ビジネスコラムニストの近藤大介が、「巨龍の胎動」について、3時間にわたって対談した。以下、3週にわたってお届けする。今週は、3回シリーズの第2回「鄧小平篇」。

⇒【第1回】中国共産党研究の第一人者が語る「反逆者・毛沢東」の圧倒的な破壊能力

まさに「オールラウンド・プレーヤー」

近藤: 前回は、いまの中華人民共和国の「建国の父」毛沢東について、天児先生の持論であり、新著『巨龍の胎動』でも余すところなく描かれている「反逆者」という立場から、その生涯を追いました。

今回は、そんな毛沢東との比較も行いながら、「改革開放の総設計師」こと鄧小平(1904年~1997年)について見ていきたいと思います。鄧小平は、「革命第一世代」の毛沢東より11歳年下で、毛沢東亡き後の中国を牽引した「革命第二世代」の代表格。そして現代中国を経済発展に導いた最大の功労者です。

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天児: 鄧小平について、私は新著で、「逆境者」というネーミングを付けました。1m50cmをわずかに超える小男でしたが、その92年に及んだ波乱万丈の人生の中で、数多くの逆境に耐えてきたからです。

近藤: なるほど。毛沢東の「反逆者」に対して、鄧小平は「逆境者」ですね。

昨年暮れに90歳で大往生を遂げたアメリカの東アジア研究の第一人者、エズラ・ヴォーゲル・ハーバード大教授は、長年の東アジア研究の集大成として、『鄧小平』(邦訳は日本経済新聞出版社、2013年)を上梓しています。この本を出した後、ヴォ―ゲル教授にインタビューしたんですが、「鄧小平にどうネーミングしますか?」と同じ質問をしてみました。そうしたら、「オールラウンド・プレーヤー」と答えましたね。

鄧小平は、政治的に中国の最高実力者であっただけでなく、軍人として60万人の軍隊を率いて戦争し、経済分野では財政部長(大臣)も務めている。少数民族地域で勤務したこともあれば、米ソ日欧などとの外交にも長けていた。1997年の香港返還も主導した。鄧小平ほどあらゆる分野をこなした政治家は、中国だけでなく、20世紀の世界に皆無だと言うんです。

天児: なるほど。しかも、何をやっても抜群の能力を発揮しましたからね。幹部人事を行う際にも、毛沢東のように「敵か味方か」ではなく、どんな考えの人もバランスよく配置したから、あまり摩擦を生まなかった。「何よりも安定を重視し、そのためにはどんな手段でも使う」という態度で臨み、改革開放後には「社会主義市場経済」「一国二制度」を生みました。

近藤: 晩年に鄧小平の最大のライバルと言われた陳雲(ちんうん)の側近に話を聞いたことがあるんですが、「陳雲と鄧小平は、考え方は水と油だったが、互いに固い絆(きずな)で結ばれていた」と証言していました。「政治家は大胆にして繊細であれ」とよく言いますが、鄧小平はその手本のような政治家でしたね。

天児: これも新著に書きましたが、華々しい鄧小平の生涯で、一つだけ「汚点」になっているのが、反右派闘争から大躍進にかけての時期です。西暦で言えば、1957年5月から1960年3月まで。鄧小平の公式の言動を記した『鄧小平文選』第1巻を読むと、この時期だけが、スッポリ抜け落ちているんです。

あの時期、毛沢東が無理な政策を強引に推し進めましたが、鄧小平はその旗振り役を務めたのです。本人は後年、この汚点を消し去りたかったんでしょうね。

近藤: 「鄧小平の空白の3年」というわけですね。『鄧小平文選』全3巻は通読しましたが、気づきませんでした。

私が鄧小平にネーミングするとしたら、「軍人」ですね。鄧小平は、毛沢東や習近平のような長々とした演説はしません。発言はいつも簡潔です。それでいて要所を押さえていて、てきぱきした軍の司令官のようです。国家を軍隊のように効率よく動かすことを考えていた政治家だと思います。

 

天児: 鄧小平語録で一番有名なのが、「白猫でも黒猫でもネズミを捕る猫がよい猫だ」という言葉です。これは1962年に、食糧問題について論じたもので、後に文化大革命で糾弾されますが、まさに「実事求是」(じつじきゅうぜ:事実の実証に基づいて、物事の真理を追求すること)という鄧小平の姿勢を表しています。

近藤: 鄧小平にとって重視すべきは、毛沢東のような「思想」ではなくて、「実践」だったということですね。

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