「多様性」が大好きなすべての人に、朝井リョウ『正欲』が突きつける「厳しい現実」

飯田 一史 プロフィール

朝井が多視点と心理描写を使って構造的に指し示しているように、人間同士が互いの内面や感情、性的な欲求を明かして誰かに理解してもらうことはきわめて困難だ。ステレオタイプな「多様性」のイメージの外側、想像力の外側にも、人々の多様な欲望や感情が渦巻いている。しかし、それは原理的に他人からは捉えがたい。捉えられたとして社会が好意的に受け入れられるとは限らない。

だが、問題の所在と、偏見や衝突を引き起こすメカニズムはわかる。むろん、問題や原理がわかるからといって、解決はできない。しかし解決できないからといって何もしないで観察者ぶっているのは最悪だ。われわれはみな他人にはなれず、できないことはある。だがそれぞれがそれぞれの人生の当事者/実行者として、その範囲で、できることをやっていくしかない。あるいは、自らの内面の問題として受け入れるしかない。

この煮えきらない、落ち着きの悪い事実。

『正欲』は改めてそのことに、読者ひとりひとりを向き合わせる。

 

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