退屈な日常に飽き飽きしていた同級生たちにとって、美形の転校生は、格好の話題の種。学内にもすぐ「加護妖先輩全力推し」などのファンクラブができる。
しかし創也はそんな加護妖について、ある一点のみを気にして、ほかのさまざまな特徴、たとえば性別などについては「些細な問題」と一蹴する。――と、この場面を読んだだけでも、現在のLGBTQの流れや、「推し」ブームをふまえていることが分かる。

そして創也が性別や外見で人のなにかを判断することはないとさらりと述べるシーンは、何気ないひとことではあるが、はやみね作品がたくさんの読者に支持される理由がちらりと伺える。(創也が加護妖のいったい何を気にしたのかは、ぜひ本書を読んで確認してほしいが)。
現在の子どもたちの空気を敏感に察知する手腕と、クラッシックな本格推理小説を下敷きにした世界観。流行と普遍性、どちらも両立させるのだ。
だからこそ、初めてはやみね作品を読んだ子どもたちは、「こんな本読んだことない!」と驚く。これまでも、そうやってたくさんの子どもたちの心をつかんできたからこそ、はやみね作品は児童小説のなかで何百万部と売れるシリーズとなったのだろう。
個人的な話をすると、私もまた、やっぱり小学生の時に「夢水清志郎」シリーズや「虹北恭助」シリーズにはじめて触れ、子ども騙しではない心理描写と、本格的なトリックに虜になったひとりだった。
しかし児童書だからといつしか追いかけなっていたのだが、最近またはやみね作品を読み返すと、「えっ、こんなに面白かったんだ」と驚いてしまった。
大人が読んでも面白い児童推理小説。その理由はおそらく、大人が読んでも子供が読んでも変わらない普遍性を、はやみね作品がいつまでも追いかけ続けているところにあるのだろう。