たしかにはやみね先生のデビューは1990年。つまりはやみね作品は、90年生まれ以降の子供たちが読む本だったから、親世代が知らなくてもしょうがない。
……それにしても、こんなに面白い作家の名前を知らないなんて! と驚いてしまう。大人が読んでも絶対面白いから、今からでも読んでよ! そう言いたくなる。
だって、今の20代から下の世代にとって、はやみねかおるは、まぎれもないヒーローなのだ。
とても上質な「推理小説の入り口」
はやみね作品の魅力は、なによりもその現代性と普遍性のバランスにある。
たとえば、私がはじめて触れたはやみね作品は、『そして五人がいなくなる 名探偵夢水清志郎事件ノート』だった。1994年に発刊された、講談社の青い鳥文庫レーベルの児童小説だ。
が、このタイトルを聞いただけで、にやりとする人がいるんじゃないだろうか。そう、『そして五人がいなくなる』は、アガサ・クリスティ―の『そして誰もいなくなった』のオマージュだ。
こんなふうにはやみね作品は、児童書でありながら、本格的な推理小説を下敷きとした物語が多い。はやみね先生自身がかなりのミステリマニアということもあり、物理トリックから密室トリック、暗号から袋とじに至るまで、はやみね作品で覚える推理小説トリックは数知れない。
そして推理小説家の名前もたくさん物語に登場させる。たとえば横溝正史、小栗虫太郎、江戸川乱歩、アガサ・クリスティ。はやみね作品を通してはじめてその名を記憶する小学生は多数いるのだろう。
つまりはやみね作品は、とても上質な「推理小説の入り口」となっているのである。大人が読んでも、本格ミステリ入門として楽しめるだろう。
子どもたちの空気を敏感に察知する手腕
ただ、読者のほとんどはこれまでミステリに触れたこともない子どもたち。彼らを虜にするために、はやみね作品はさまざまな仕掛けを施す。
たとえばシリーズ最新作『都会のトム&ソーヤ(17)《逆立ちするライオン》』では、新キャラ・加護妖が登場する。彼、いや彼女は、ショートカットの美人ながら、男子用の制服を着用する。男か女かわからないキャラクターとして登場しているのだ。