福島第一原発事故 想定高さ「15.7メートル」保安院に報告4日後、現実に…

「津波対策は不可能だったのか」第5回
NHKスペシャル『メルトダウン』取材班

小山は福島県庁で30年以上、原発の対応に当たってきた。県民の不安や疑問になるべく応えようと、独自に原発の安全性に関わる記事や論文などをスクラップしては、情報収集を欠かさず続けてきた。

小山自身、その中で「貞観津波」の存在や研究成果について知っていたという。

小山が貞観津波のリスクをさらに認識したのは2009年6月、保安院で行われた福島第一原発5号機のバックチェックの審査の中での、例の産業技術総合研究所の岡村の発言だ。

「このように貞観津波の話が出てくると、いずれは議論をしなければいけないと思った」

小山は、その当時のやりとりを思い出しながらそう答えた。

2010年3月から4月にかけて小山は数回、東京・霞が関の経済産業省に出張した。ここで資源エネルギー庁と交渉の場が持たれた。この中で資源エネルギー庁の担当者は「耐震安全性の確保」を具体的にどういう内容で考えているか聞いてきたという。

3号機についても5号機で行ったバックチェックと同様に中間報告でいいか、福島県の考えを確認するためだった。中間報告と、津波評価を含む最終報告では、かかる時間が大きく異なる。資源エネルギー庁にとってその点が重要だった。

一方、福島県のスタンスは、安全に関わるところであり、あくまでそこは国や東京電力の責任で考えるべきというものだった。小山はそのときの対応をこう振り返った。

「『津波とか影響評価を除くのか』などと国のほうから何度も求められました。しかし福島県で議論を限定することではなく、あまりこれをやってほしいとお答えしなかった」と。また資源エネルギー庁から具体的に対象とする津波の名前までは出してこなかったという。

このあたりについて取材班は、当時の資源エネルギー庁の交渉窓口だった担当者にも話を聞くことができた。少し忘れていることもあると前置きした上で交渉担当者は「貞観津波について差し迫ったリスクとは思わなかったと思う。安全性に影響するようなものではないと受け止めていた」と話した。そして福島県との交渉の中で貞観津波に触れたかどうかはよく覚えていないとのことだった。

双方への取材から言えることは一連の交渉で貞観津波が議論の俎上に明確には上ってはいなかったということだった。

福島県原子力安全対策課元課長の小山吉弘 ©NHK

津波の予想高を知っていた人は、ごく一部

保安院は先述のメールの通り貞観津波についての認識はあった。そして福島第一原発は敷地が高くなく、貞観津波が原子炉冷却に必要な海水ポンプのある敷地を越えてくる懸念も共有されていた。しかし、東京電力が前年の2009年9月7日に保安院に示した「最大で約9メートル」という計算結果は、保安院のごく一部の担当者でとどまっていたのだ。

また、小山も貞観津波の想定津波について東京電力が計算した詳しい結果を知らされていなかった。

小山は、もし具体的な想定津波の高さを知っていたら、安全性の担保は国と東京電力に求めたとしても、交渉の仕方が変わったのではないかと悔恨とともに振り返る。

「昔、トラブルが起きたときに福島県から原発を止めるように要請したことさえある。具体的な数値を知り『このままでは駄目だ』という話になれば、福島第一原発を止める、止めなきゃいけないと、そんな対応をしていたはずです」と。

小山は、東京電力と情報共有が図れなかったこと、そして貞観津波について問題提起できなかったことを今でも自身の力不足だったと痛恨の念を抱いていた。そして、結果として津波の評価については先延ばしになったことについて「津波についてオープンにして議論する場が設けられずに、こんな事態になってしまった。何かもっとできたのではないかという悔いは当然ある」とカメラに語った。

結果、福島県からプルサーマル実施の条件で示された「耐震安全性の確保」は、津波評価を含めない地震評価の中間報告をもって了とされた。こうして貞観津波を巡る最後のチャンスにも手が届かなかったのである。

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