福島第一原発事故 想定高さ「15.7メートル」保安院に報告4日後、現実に…

「津波対策は不可能だったのか」第5回
NHKスペシャル『メルトダウン』取材班

プルサーマル開始に翻弄されるバックチェックの評価

MOX燃料を原子炉に入れるタイミングは、法律で13ヵ月に1回、運転を止める「定期検査」だけだ。国と県の交渉が行われていた2010年3月の時点で、福島第一原発3号機の次の定期検査で燃料を入れるタイミングは5ヵ月後の8月だった。このため最速となるこの日程が期待された。経済産業省の中で原子力の推進を担当する資源エネルギー庁はそれまでに福島県の条件をクリアすることを目指したのだ。

当時、福島第一原発では5号機でバックチェックの中間報告が完了していた。この中間報告には津波評価は含まれていない。ただ、県が条件に出した3号機の「耐震安全性の確保」は、場合によっては3号機でもバックチェックを実施することが必要になるかもしれなかった。ここでバックチェックを中間報告だけでなく津波も含む最終報告の評価まで新たに行うと段違いに時間がかかり次の定期検査には間に合わない。資源エネルギー庁はこのあたりを心配し、後に当時の経済産業大臣の直嶋正行(なおしま まさゆき・64歳)にもこの状況をレクチャーしている。

もし最終報告の評価まで行うと、バックチェックの対応はかなりの時間を必要としてしまうこと。そして、原子炉にMOX燃料を入れる8月という直近のタイミングに間に合わないと、その次は1年後になることなどだ。直嶋は事情を知った上で、保安院にも対応するよう指示をすることになる。

できるだけ早く所定の手続きを進めたいと考えていた資源エネルギー庁は5号機に続き3号機についても、バックチェックを実施するよう保安院に打診する。しかし、突然、予定にはなかった評価を行うことは、他の原発の審査などを後回しにすることになる。安全の砦たる保安院としては、プルサーマルの実施という推進行政については管轄外のことだ。

当時の保安院の幹部に取材をすると、このときは、かなり資源エネルギー庁の依頼に抵抗したと語っている。当時、保安院にいた他の関係者も「介入しないでくれとの思いがあった」と振り返っている。しかし、同じ経済産業省の中にある保安院。大臣の指示も出される。結局、保安院は3号機のバックチェックも手がけることになる。ただ津波についてどうするのか。保安院の審議官が院長ら上層部に説明した内容について担当者たちに送ったメールを入手。当時の受け止めの様子がわかってきた。

「1F3(福島第一原発3号機)の耐震バックチェックでは、貞観の地震による津波評価が最大の不確定要素である」

福島県の条件に応えるため、3号機でバックチェックの審査を行った場合、貞観津波について、評価されずに済むのだろうかという問題提起であった。もし津波の問題に議論が発展した場合、審査は長期化すると予想される。そうすると、早くプルサーマルの実施にまでもっていきたい資源エネルギー庁の思惑とは反することになる。また、メールには「バックチェックの評価をやれと言われても、何が起こるかわかりませんよ」とまで記されていた。

【写真】保安院の審議官が部下に送っていたメール。「バックチェックの評価をやれと言われても、何が起こるかわかりませんよ」と記されていた ©NHK

国と福島県 貞観津波を巡る問答の結末は

こうした資源エネルギー庁と保安院のやりとりが進む一方、資源エネルギー庁は福島県との交渉も着々と進めていた。県との調整をできるだけ早く行うためだ。

私たちは国と県の交渉の内実に迫るため、県側の交渉の窓口だった元職員に取材をお願いした。まだ寒さの厳しい2020年1月、JR福島駅前で待ち合わせをした。そこに現れた初老の男性。「こんにちは」と話しかけると、コートを着込みハットを被った男性は深々とお辞儀を返した。当時、福島県の原子力安全対策課長を務めた小山吉弘(こやま よしひろ・67歳)だ。

初めてカメラのインタビューに応じたという。自らの経験を教訓にしてほしいという理由だった。緊張した面持ちで、取材班に資源エネルギー庁との交渉の様子を話してくれた。

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