福島第一原発事故 直前の津波対策で事故を回避した電力会社があった

「津波対策は不可能だったのか」第3回
NHKスペシャル『メルトダウン』取材班

広がらなかった取り組み

その理由を探して「英断」を下した日本原電にさらに取材を重ねた。すると見えてきたのは電力業界の「東京電力を中心に各社足並みを揃える」という長年の“物事の進め方”だった。日本原電は、自らが行っていた津波対策を対外的に気づかれないようにしていたことがわかってきた。

日本原電は、東日本大震災の前、東海第二原発で津波対策を行ったことは公表せず、対策の根拠を曖昧にすることに苦心をしていたのだ。長期評価に対応するべく種々の対策を練り上げていたにもかかわらず、その事実を隠す形となった。

取材班はそれを示す資料を入手した。当時、日本原電が保安院に対して、津波対策工事の内容を説明するために作成した想定問答集だ。そこには驚くべき記述があった。日本原電がもとにした長期評価によれば、建屋には津波は「遡上する」ことになる。しかし、問答集には長期評価の文字はなく「遡上しない」と説明するようにと記されていた。また対策工事は、万が一のための自主的なものに過ぎないとしていた。

なぜこうした対応をとったのか。その背景に何があるのかを日本原電の元幹部に取材をした。元幹部はそこには原子力業界の長年の慣習があると語った。

「電力各社は、横並びというか、他社のことも考えながら物事を進めるのが原則となっていて、特にリーディングカンパニーの東京電力などに配慮をしながら進めるという習慣が身についている。対策をやってしまえば、たちまち他社に波及することになり、気をつけなければならない」と。

【写真】「関係各社の協調が必要」本回冒頭に挙げた東京電力の担当者から、日本原電・東北電力などの担当者に送られたメールでは、東電担当者が「関係各社の協調が必要」と呼びかける文言があった。業界で足並みをそろえることが、長年の慣習になっていた(東電株主代表訴訟の証拠資料より) ©NHK
 

そしてこうしたやり方は電力事業という公共性の高い事業を全国で進めるにあたって電力各社の連携が不可欠なことから派生していると付した。

日本原電は、震災後、茨城県の山田からの求めに応じ、津波対策を取っていたことは認めている。しかし、それ以外はメディアに発表していない。電力各社は原発の安全対策に関わる案件は比較的丁寧に発表することが多いにもかかわらず、だ。

取材班は、日本原電に見解を求めた。返ってきたのは「回答は差し控えたい」というものだった。すでに東日本大震災から10年がたとうとしている。そんな今でも、東海第二原発で行われた「英断」を明らかにしたくないものなのか。

対策を進めていた中部電力もメディアに発表していなかった。理由について聞くと「一部の津波対策が社として意思決定されていなかったため、公表していなかった」との回答が寄せられた。東京電力の存在や各社との横並びが理由ではないとした。

いずれにしても見えてきた事実は、津波へのさらなる備えが必要だと考えて扉の水密化など具体的な対策を検討し着手していた会社があったにもかかわらず、こうした姿勢や対策が業界全体には波及しなかったということだ。

また、メディアへの発表もなかったことから、原発を巡る津波のリスクを社会全体として共有する機会も持てなかった。もしこうした取り組みが広く国民に知らされていたら、東京電力を含めた電力各社の姿勢や保安院の取り組みも、少し違ったものになっていたのではないだろうか。そう思わざるを得ない取材結果だった。

*記事中の人名については敬称を略しました。年齢、肩書き等は取材時点のものです。

「津波対策は不可能だったのか」第4回は、6月4日公開です

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