福島第一原発事故 直前の津波対策で事故を回避した電力会社があった

「津波対策は不可能だったのか」第3回
NHKスペシャル『メルトダウン』取材班

3つ目のチャンス「延宝房総沖地震」と日本原電

津波対策に対して消極的な姿勢に転じていく東京電力。ところが取材を進めるとこれに反した意外な取り組みが、ある電力会社で進んでいたことが明らかになってきた。この事実は取材班にとっても驚きだった。

というのも東京電力は業界のリーディングカンパニーだ。業界のスタンダードは東京電力が決めるとも言われる。ほかの電力会社も東京電力の考えに気配りをする。それが電力業界、とくに原子力業界の不文律だ。

【写真】東京電力の担当者から、日本原子力発電・東北電力などの担当者に送られたメール東京電力の担当者から、日本原子力発電・東北電力などの担当者に送られたメール 。「推本即採用は時期尚早」と書かれ、東京電力として地震調査研究推進 本部の長期評価を取り入れることを事実上見送ったことを伝えている。拡大画像はこちら(東電株主代表訴訟の証拠資料より) ©NHK
 

ところが、だ。この東京電力とは異なる道を選んだ会社があった。日本原子力発電だ。茨城県と福井県に原発をもつ原子力の専業会社だ。

日本原電は、新規技術を導入するパイオニアとしての役割を担い、東京電力を含め電力各社の出資で運営されている。日本初の商業原発である黒鉛炉の東海原発も日本原電が運営し、さらに商業原発では初めて廃炉作業に着手している。日本原電の社長は代々、東京電力と関西電力から送り込まれる。

東京電力が津波対策に後ろ向きになる中、日本原電は独自に津波対策を進めていた。しがらみの多い原子力業界のなかで、敏捷な動きがとれない東京電力を尻目に、なぜ、日本原電は対策を打てたのだろうか。取材を進めていくと、その経緯が徐々に浮かび上がってきた。

2008年8月6日、東京・神田にある本店で開かれた社内ミーティング。

「こんな先延ばしでいいのか」

「なんでこんな判断をするんだ」

開発計画室長が発言した言葉は会議を気まずい雰囲気にしたという。室長の発言は東京電力の対応に対してのものだった。実はこのミーティング、東京電力の現場担当者から、各社の担当者に対して、長期評価にもとづく津波対策を事実上保留する方針が伝えられた直後に開かれたものだった。日本原電では、ちょうどその前日の8月5日に常務会が開かれ、津波対策の検討状況が報告されたばかりでもあった。

日本原電ではどのような対策が取られていたのか。取材班は2008年5月に作成された日本原電の内部資料を入手した。ここでは、従来の想定の倍以上となる12.2メートル(日立港の海面を基準にした数値)という津波の高さが記されていた。

その対策として、海沿いの敷地に防潮堤代わりとなる盛り土を造成し、この盛り土を越えた場合に備えて建屋の扉を防水にして浸水を防ぐことなども計画されていた。きわめて具体的な対応が進んでいたのだった。

結果的に日本原電は、太平洋に面した茨城県東海村にある東海第二原発で重大な事故の危機を回避することになる。仮にだが、東海第二原発から大量の放射性物質が出ていたら、首都圏は大混乱に陥っただろう。東海第二原発は首都圏唯一の原発で、東京に最も近い。業界の盟主である東京電力ができなかった「英断」が、なぜ日本原電にできたのか。取材班は鍵を握る人物にたどり着いた。

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