福島第一原発事故 動き始めた津波対策はなぜ実現しなかったのか?

「津波対策は不可能だったのか」第2回
NHKスペシャル『メルトダウン』取材班

15.7メートルの衝撃

津波対策の見直しを求める資料が提出された御前会議から1ヵ月後の2008年3月。東京電力社内に衝撃が走った。土木グループがグループ会社の東電設計に詳細な計算を発注していた、長期評価を踏まえた場合に福島第一原発で想定される津波の水位の結果がもたらされたのだった。それは最大で「15.7メートル」。それまでの想定の3倍近い驚きの結果だった。

担当者にとっても想像していなかった数字だったという。それまでの計算で福島第一原発の津波想定はすでに7.7メートル以上になることは見込まれていたが、さらに詳細な計算を行っている中で、どこまで高くなるかははっきりしていなかった。7.7メートルでも対策は必至だったが、原子炉建屋など主要な建屋がある高さ10メートルの敷地を超えるかどうかは、大きな分岐点と言えた。15.7メートルは、その10メートルをはるかに超えている。それだけに衝撃が大きかったのだ。

【写真】東京電力が計算した福島第一原発敷地南側の津波の高さは15.7m2002年に公表された政府の地震調査研究推進本部の「長期評価」をもとに東京電力が計算した、福島第一原発敷地南側の津波の高さは15.707メートルだった。それまでの津波想定5.7メートルを10メートル上回るものだった(東電株主代表訴訟の証拠資料より) ©NHK
 

10メートルを超えることの意味を端的に示す記述が残されている。2008年3月7日、土木グループと対策を実施するグループとの間で津波対策についての今後のスケジュールを議論する打ち合わせが開かれていた。

このときの議事録によると、対策側の担当者は打ち合わせで、10メートルを超えると、「主要建屋に水が流入するため、対策は大きく変わることを主張」し、「対策自体も困難」であることを説明していた。津波水位が10メートルを超えれば、原子炉建屋への浸水も想定され、その対策が必要になる。しかし、対策を実施するグループからすれば、守るべき安全上重要な設備が非常に多くなることから、その困難さを思い、困惑を吐露していたのである。それだけ10メートルを超えることは、対応に大きな差を生むのだった。

この打ち合わせに参加していた土木グループの担当者は、法廷でこの時期のことを証言している。

「(対策を実施するグループでは)タービンやリアクター(原子炉)が設置されている10メートルを超えないという理解をしていたと思うんですけれども、それよりも大きいと私が伝えたところで、そうなると、考えていた前提条件が成り立ちませんよというふうに言っていた」「10メートルを超えると、タービンやリアクター、守るものが無数にあって、対策ができないという、できないというか、事実上、かなり困難だという話をどこかの段階で言われたのは記憶してます」と。

翌4月に行われた打ち合わせの議事録には、「主要な建物への浸水は致命的」との言葉も残され、敷地の高さを超える津波に対する危機感がうかがえる。にわかには対策の方法も見当たらないような15.7メートルという計算結果。土木グループでは、沖合などに防潮堤を建設した場合にどの程度津波水位を下げられるかなど対策の検討を進めていくことになった。

しかし、この数字はこのとき、保安院には報告されていない。後述するが保安院は福島第一原発に15メートルを超える津波が襲う想定を知らないまま、規制の対応を進めていくことになる。

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