なぜとわ子と元夫たちの暮らしはおしゃれなのか

さて、冒頭の疑問に戻ろう。坂元裕二はなぜ本作でこれまでの作風を微妙に変化させたのか。その理由を推察するヒントは、第4話にあった。かごめがとわ子に向けて語るセリフである。

「あなたみたいな人がいるってだけでね、あ、私も社長になれるって小さい女の子がイメージできるんだよ。いるといないとじゃ大違いなんだよ。それはあなたがやらなきゃいけない仕事なの」

これは、企業の女性管理職の割合が平均7.8%(帝国データバンク「女性登用に対する企業の意識調査」2020年より)しかない今の日本において、女性が社長として働く様子が“普通に、当たり前のように”ドラマの中で描かれることが、未来の働く女性へのエンパワーメントになる、という作り手のメタ・メッセージのように聞こえる。「それはテレビドラマがやらなきゃいけない仕事なの」ということだ。

これまで坂元は、『問題のあるレストラン』『いつかこの恋を思い出してきっと泣いてしまう』『anone』などで、女性差別やパワハラ・セクハラ、貧困、労働搾取、格差構造などの切実さを繰り返し描いてきた。これらはドラマ通からの評価こそ高く熱烈なファンも多いが、放送当時は視聴率的にいささか苦戦を強いられたのも事実だ。「フィクションの中でまでしんどい現実を見たくない」という視聴者の時代の気分によるところも大きかっただろう。

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本来届けたかった層に作品が届かなかった苦い経験と歯痒いジレンマ。だからこそ、『まめ夫』は洒脱なロマンティックコメディとしてスタートしたのではないか。現実とは乖離していても、登場人物たちの暮らしには余裕と華を持たせる。女性が社長として当たり前のように働き、男性たちが普通に家事役割を担う様子を描く。それまで好まなかった説明的なナレーションを多用し、本来じっくり会話を見せたいところでもシーンを細かく割って、YouTube世代の視聴者も飽きずにテンポよく見られるように間口を広げたのだ。

そうして多くの視聴者が気楽に楽しめる世界観を提示してきた本作は、第5話で急展開を見せる。取引先の門谷社長(谷中敦)が、ナチュラルに女性を見下す恐るべきハラスメント男だった。ホテル暮らしの慎森につきまとう小谷翼(石橋菜津美)の正体が、普段気にもかけず存在をいないことにしていた清掃員だった。これまでの坂元作品が取り上げてきたような現実の問題が、どこか牧歌的だったとわ子と元夫たちの住む世界に、急に牙をむき始めたのだ。

ひょっとすると、むしろここからが坂元裕二の本当に描きたいことが描かれるのかもしれない。そんなドラマ後半戦の展開から、いよいよ目が離せなくなりそうだ。