4年前、5歳の子どもがいて離婚した石井りかさん(仮名・45歳)の元夫は、ふだんから自分が勤めている会社を「○○社様」と、「様」をつけて呼ぶ人だった。当初は違和感があったが、そのうち耳が慣れてしまった。

しかし、いざ離婚するというときに、義両親からこう言われた。
「あなた、うちの息子と離婚するということは、○○社を手放すということなのよ、わかっているの!」
「そばで元夫も、そうだ、そうだ! って。ポカン…ですよね(笑)。でも、それでよくわかったんです。元夫は私をバカにしていたんだな。『○○社に勤めるほどの俺が、実家に力もない、大した学歴もない、そんな雑魚と結婚してやったんだ、感謝しろ』と、ずっと思っていたんだな…」

お金を稼ぐというのはなかなか難しい。そして、お金は生活にもとても大切なものだ。しかし、「給料の高い会社にいること」だけでその人の価値が決まり、ほかの人を見下していいということにはならない。「大企業にいること」をアイデンティティとしてしまった夫の態度に疲れ果ててしまった女性の体験を、ライターの上條まゆみさんがお伝えする。
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40度の高熱でも放置され…

「○○社」はたしかに、日本を代表する大企業の一つだ。元夫が誇りに思う気持ちはわからないでもないが、実はりかさん自身もその会社の社員だった。夫は一流大学を経ての新卒入社、りかさんは英語力を買われての中途入社。支社は違ったが、年末の合同パーティで出会い、元夫からのアプローチで付き合い始めた。

「カラオケで歌っていたあの子は誰? っていろんな人に聞き回って、私を探し当てたんです。楽しそうに歌っている姿に一目惚れした、と言っていました」
りかさんも元夫も20代で1回目の結婚をし、子どもはいないまま、すぐに別れていた。そんなことで話も合い、付き合い始めた。9ヵ月ほど経ち、「年齢も年齢だし、この人と結婚するのかな」と思い始めたころに妊娠し、結婚した。

「出産直前に、元夫の海外駐在が決まったんです。行き先はインドネシア。家族帯同が原則だそうで、『私、仕事どうしよう?』と言ったら、軽く『辞めたら?』と。妊娠していたし、そんなものかと思って辞めてしまったのは、私がいけなかったと思います」

人によっては憧れの駐妻生活だが、慣れない外国暮らしでの出産、育児は大変だった。元夫は出張が多く、りかさんは、平日はほぼ一人で子どもの世話をした。

元夫はとにかく、仕事が最優先の人だった。
「息子が生後4ヵ月くらいのとき、息子はノロウイルスに、私はインフルエンザにかかってしまったんです。息子は嘔吐と下痢で苦しみ、私は40度の高熱にうなされているその状態で、水一本買ってくれることもなく、朝の5時から2週間の出張に出かけてしまった。仕事が大事なのはわかるけど、何のヘルプも助言もなく、まだ頼れる友だちもできていないなかでそれをやられたこと、いまでもかなり恨んでいます」

小さい子どもがいて自分の体調が悪いのはキツイ。ましてや子どもの体調が悪くて自分の体調も悪いと、途方にくれるのだが…Photo by iStock

自分の勤める会社に「様」をつけるだけあって、家族より仕事が大切な元夫。りかさんが「もう少し家庭に関心をもってほしい」と訴えても、「金は渡しているだろ、何が不満なんだ」と返ってくる。

「平日は夫の帰りが遅いのであまり顔を合わせずにすみますが、週末は、一緒にいるとけんかになってしまう。それで、子どもが少し大きくなってからは、土曜日に夫がゴルフに行ったら、日曜日は私が子どもを夫に見てもらって外出することにしていました。家族3人で過ごす時間はほとんどありませんでした」