©服部元信

ド文系にも「アインシュタイン方程式」が読めた?これが行列の化け物「テンソル」だ!

アインシュタイン方程式を読む 第3回
ベストセラーとなった科学書の編集を何冊も手がけてきたライターの深川峻太郎さんが一般相対性理論の“数式”へと挑んだ話題作『アインシュタイン方程式を読んだら「宇宙」が見えた』。そのプロローグと第1章を、全6回の短期連載で特別公開いたします。

前回、登るべき山「アインシュタイン方程式」を目にした深川さんが最初に抱いた疑問は「μν」っていったいどう読むの? というものでした……素人だけでこの冒険に挑むのはどう考えても不可能です。そこで、山登りのシェルパとしてKEK(高エネルギー加速器研究機構)で広報の仕事をしている「しょーた君」に協力してもらうことに。いよいよ、数式の中身を見ていきます。

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深川峻太郎
ライター、編集業。1964年北海道生まれ。2002年に『キャプテン翼 勝利学』(集英社文庫)でデビュー。『月刊サッカーズ』(フロムワン)、『わしズム』(幻冬舎、小学館)、『SAPIO』(小学館)などで時事コラムを連載。本名(岡田仁志)では著書に『闇の中の翼たち ブラインドサッカー日本代表の苦闘』(幻冬舎)があるほか、フリーの編集スタッフとして手がけた書籍は200点を超える。

最初の衝撃

2015年12月、私は担当編集者とともにつくばへ向かった。しょーた君オススメのホルモン焼き店で、最初のミーティングである。

じつをいうと私は内臓方面の食い物が苦手で、焼き鳥屋でもつくねとねぎまぐらいしか食べないタイプだ。

しかし、ここはあえてホルモン焼きを受け入れるべきだと考えた。なにしろ私はこれから、ひどく苦手な数式の世界に飛び込むのだ。ホルモン焼きから逃げるような軟弱な生き方を改めなければ、アインシュタイン方程式を克服することなどできるわけがない。ああ、なんて立派な心がけなんだ。

しょーた君は「ボクもこれからいっしょに勉強するつもりでやらせていただきます」とのことだった。というのも、大学院時代の彼が取り組んでいた素粒子物理学は、基本的に重力を扱わない。それはなぜなのか、ごく簡単に話しておこう。私も素粒子物理学の入門書はいくつも編集してきたので、(数式ナシなら)このあたりの説明はできるのだ。えへん。

山に登るには準備運動が大切 ©服部元信

自然界のいわゆる「4つの力」──重力・電磁気力・強い力・弱い力──のなかでも、重力は極端に弱い(強い力と弱い力は素粒子の世界で働く力だが、その話をすると長くなるので、いまは電磁気力と重力の関係だけ考えよう)。よく言われることだが、小さな磁石1個の電磁気力(磁力)でさえ地球1個の重力に勝ち、机上の金属製クリップを持ち上げる。じつは、電磁気力の大きさを1とすると、重力はこれしかない。

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10のマイナス36乗だ。もんのすごーく弱いから、もんのすごーく小さい素粒子の世界のことは、重力をとりあえず無視して考えることができる。それはもう、私たちが自分の体重を計測するときに腸内の微生物1匹の重さを無視している以上に無視できるのである。

そのため「素粒子の標準模型」と呼ばれる理論体系に、一般相対性理論は入っていない。大学院時代に素粒子物理学のニュートリノ実験をやっていたしょーた君がややそれに不案内なのは当然である。物理学徒がみんなアインシュタイン方程式に親しんでいるわけではないのだ。

しかし私にとっては、それぐらいのほうがありがたい。物事を完璧に理解している専門家は、往々にして、初心者が何を理解できないのかが理解できないものだ。

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