Photo by iStock
# エンタメ # 将棋 # AI

【天才だけが知る若き天才の秘密】谷川浩司棋士が語る藤井聡太とは?

藤井聡太論 将棋の未来(1)
AIの台頭により、これまで以上に厳しい勝負と鍛錬を求めらることになった棋士たち。そんな変動と混沌のさなかにある将棋界に彗星のごとく現れたのが、藤井聡太という天才棋士である。
自身も史上最年少で名人位を獲得した、谷川浩司棋士が、藤井聡太という巨大な才能の謎に迫ることを通して、トップ棋士の持つ能力を明らかにするとともに、新たな時代を迎えつつある将棋の現在と未来を展望した。その強さの本質はどこにあるのか。メンタルはどれほど強靱か…『藤井聡太論 将棋の未来』から連載スタート!

球種多彩な百六十キロ投手

「天才」「異次元」「神の子」「怪物」「ミュータント」……。藤井聡太さんについては、多くの棋士がさまざまな言葉でその抜きん出た強さと才能を表そうとしてきた。

Photo by GettyImages

「すごい子が現れた」「驚くべきことだ」「弱点が見えない」といった手放しの賛辞が数限りなく寄せられながら、一方でその才能の拠って来たるところについては、誰しも言葉に窮している様子がうかがえる。

「何が違うかわかりません」「センスが抜群にいいとしか言いようがありません」(羽生善治)、「天才という言葉を使わないで藤井君について説明するのは難しい」(渡辺明)。

確かに藤井さんは四段に昇段し、プロデビューした時点ですでにかなり完成されていた。私はこれまで多くのトップ棋士の四段時代に対局をしてきたが、いくら強い棋士でも、17歳、18歳の頃までの棋力は「突出して強いところもあるが、まだまだ完成途上」が常識だった。

とくに序盤が粗削りである場合がほとんどで、羽生さんや私もその例外ではなかった。ところが、藤井さんの場合は序盤もほとんど欠点がなく、これといった弱点が見当たらない。メンタル面やメディア対応、礼儀や言葉遣いも含めて付け入る隙がないと言っていいだろう。

得手不得手にしても通常は偏りがあり、十代、二十代と経験を積み、強くなっていく過程で苦手なものを克服していくものだ。しかし、藤井さんはこの年齢にして、すでにいろいろな勝ち方ができる。

 

作戦的には居飛車であれば何でも指すが、序盤で角を交換する「角換わり」など得意戦法が決まっている。ただ序盤センスが優れているので、初めて指す形でもそつなく対応ができている。そして、中終盤に関してもオールラウンダーで苦手な分野がない。

そのうえデビューからトップ棋士との対局を重ねることによって、さらなる前進を続けている。

トップ棋士の真の強さが現れるのが中盤である。とくに初見の混沌とした局面でいかに本質と現状を見極め、勝つための最善手を導き出せるか。2020年に入って、この力がさらに充実を見せ、成績、内容ともに目をみはるものがあった。

ピッチャーにたとえると、150キロ出していた球速が160キロを超え、コントロール抜群のうえ球種も多彩になって……といったところだろうか。

そして、なんと言っても彼はまだ十代だ。若さの伸びしろがある。棋士が最も成長する十代から二十代にさらに多くの経験を積みながら、藤井聡太という棋士はどこまで進化していくのだろうか。

関連記事

おすすめの記事