福島第一原発事故の不都合な真実「巨大津波は想定されていた!?」

「津波対策は不可能だったのか」第1回

3つの原子炉が相次いでメルトダウンし、原子炉や格納容器を納める原子炉建屋が次々に爆発するという未曾有の原発事故を描いた『福島第一原発事故の「真実」』(小社刊)が大反響を呼んでいる。

発売から2ヵ月あまりで、『朝日新聞』『毎日新聞』『東京新聞』『文藝春秋』『しんぶん赤旗』『公明新聞』など様々なメディアで取り上げられた。

「今になって明らかになった事実には、驚く他ない。背筋が寒くなり、とにかくこれは、皆が事実に向き合って考えるところから出直す課題だと強く思う」(毎日新聞書評、JT生命誌研究館名誉館長 中村桂子氏)

「厚さに圧倒されつつ、読み始めたらあっという間に読み終えてしまった。まさにドキュメンタリー・エンターテイメントともいえる読み応えのある一冊となっている」(公明新聞書評、長崎大学核兵器廃絶研究センター副センター長・教授 鈴木達治郎氏)

といった高い評価を得ている。

当時の福島第一原発所長の吉田昌郎氏をはじめ現場は決死の覚悟で原子炉の冷却に取り組み、格納容器の爆発などの事態は免れた。事故から10年。NHKメルトダウン取材班は、この間、事故の真相を突き止めるべく徹底的な取材を続けてきた。すると、東日本壊滅という最悪のシナリオを逃れることが出来たのは消防注水の失敗や格納容器からの思わぬ圧の抜けなど、いくつかの「偶然」が重なった公算が強いことがわかってきたのだ。

現代ビジネス、ブルーバックスWebでは、「2号機の危機」を描いた同書6章の完全公開に続いて、津波対策の謎」について検証した17章を全5回の連載で完全公開する。実は巨大津波の襲来に備えるチャンスは複数あったことが取材からわかってきた。では、なぜ対策がなされなかったのか? そこには東電をはじめとした各電力会社、原子力安全・保安院などの国、そして自治体が、"不確定なリスク"に正面から向き合えなかった姿が浮かび上がってきた。

「2号機の危機」連載第1回はこちら

事故から8年半後の判決

東京電力福島第一原子力発電所の事故から8年半が過ぎた2019年9月19日の正午前。東京・霞が関の東京地方裁判所の周りには、この日、行われる裁判を傍聴しようと長い列ができていた。席の傍聴席に対して傍聴を希望した人は835人。傍聴券の倍率は実に18倍を超えていた。

ちょうど同じ頃、黒や紺のスーツに身を包んだ東京電力の旧経営陣3人が厳しい表情で裁判所に入った。元会長の勝俣恒久(かつまた つねひさ・79歳)、元副社長の武黒一郎(たけくろ いちろう・73歳)、元副社長の武藤栄(むとう さかえ・69歳)の3人だ。勝俣と武黒はややうつむき加減であったが、武藤は前をまっすぐに見つめて足早に裁判所に入っていった。3人の被告に対する2年3ヵ月に及んだ裁判の判決が言い渡されようとしていた。

【写真】2019年9月東京地裁に入る旧経営陣の3人2019年9月19日の正午前、東京・霞が関の東京地方裁判所に入る勝俣恒久元会長(左)、武黒一郎元副社長(中央)、武藤栄元副社長(右) ©NHK

東京地裁で最も大きい104号法廷。午後1時10分すぎに入廷した3人は、互いに目を合わせることはなかった。午後1時15分、開廷。3人が法廷の中央にある証言台の前に並ぶ。裁判長が「被告人らはいずれも無罪」と主文を読み上げた。傍聴席からは思わずため息が漏れた。

東京地裁の正面玄関前は、報道陣や裁判の結末を見届けようと訪れた人たちでごった返していた。真夏を思わせる強い日差しが照りつけるなか、憮然とした表情で2人の女性が裁判所から出てきた。その手には「全員無罪 不当判決」と書かれた紙が掲げられていた。

責任追及への長い道程

旧経営陣3人の刑事責任を問う裁判が始まったのは、2017年6月。事故からすでに6年3ヵ月が過ぎていた。

刑事裁判の開始までには長い道のりがあった。まず、事故の翌年の2012年、福島県の住民など合わせて1万人以上が東京電力の旧経営陣らの刑事責任を問うよう求める告訴状や告発状を検察に提出。東京地方検察庁が旧経営陣から任意で事情を聞くなど捜査を進めたものの、全員を不起訴とした。

これを不服とする住民グループは市民が審査する検察審査会に申し立て、審査の結果、「起訴相当」という議決が出された。検察は改めて捜査をすることになるが、再び不起訴となる。これを受けて検察審査会は、別の審査員によって再度審査を行った。そして、事故から4年余りが過ぎた2015年7月、「起訴すべき」とする2回目の議決を出した。これによって、当時の経営陣3人は強制的に起訴されることになった。

あの事故の責任は誰にあるのか。責任を誰かに問うことはできるのか。注目の裁判がようやく始まることになった。裁判で問われたのは、東京電力は本当に事故を防ぐことはできなかったのか、あの津波を予見し、対策を取ることはできなかったのか、という論点だ。

審理は37回に上り、21人の証人が証言に立った。なかには、東京電力の現役の社員、当時、津波対策に中心的に携わった元幹部なども含まれていた。裁判の過程でそれまで表に出ていなかった新たな事実が次々に明らかになっていった。

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