コロナの外出自粛が後押ししたもの

あっという間に悪化した。第一波が来て最初の緊急事態宣言が出てから、買い物にも行かなくなった。まったく外に出ない。人に会わないし、何しろ会えなくなった。母も「コロナが怖いけん」とすごく恐れていた。

人口6万人程度の小さな町はコロナ感染者が出ると、すぐに特定されて噂になった。家に張り紙をされ、壁に落書きをされ、町を出ていく人もいたと聞く。私が「一度帰ろうかな」と言っても、母は「来なくていい。ひどい目に遭うよ」と言った。世田谷ナンバーの車に乗っていた東京出身の義妹は車を破壊され、それ以来「〇〇市在住です」という紙をフロントガラスにつけていた。

家から出られなくなった母は日がな一日テレビを観て過ごした。そしてそのうち、料理も掃除も何もしなくなった。すべて弟に頼み、夜中に「おなかが空いた。夕飯食べてないよ」と構わず電話するようになった。多くの時間をベッドで過ごしたが「寝たきりみたいで嫌だ」とオムツを拒否した。

外出を自粛し、家の中にこもりきり…Photo by iStock
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秋になり、母は入院を経て、施設に入ることになった。
私は立ち会うために帰省することにした。就活を終えた大学4年の息子が「就職したら、いつ会えるかわからないから」と言って一緒に行くことになった。

まずは実家に赴き、母が入所するための荷物を作った。母の下着を詰めていたら、弟が苦しそうな顔で言った。
「それ、いらないよ。もうずっとオムツだから」
母が通販で買ったらしいピンクやレモンイエローの新品のショーツをタンス戻しながら、母の身に起きたリアルが、私の胸に突き刺さった。

病院で9ヵ月ぶりに会った母は、私に「とてもお世話になったのよ」と付き添いの看護師さんを紹介した。息子を見上げ「立派になったねえ」と目を細めた。施設のバスを待つまでの間、病院のカフェで、母は紅茶を飲みながら「コーヒーが飲みたいなあ。でも、コーヒーは利尿作用があるからおしっこが増えちゃうからダメなの」と言った。