新型コロナウイルスにより、家族が会えなくなってしまっている期間が長くなっている人は多い。そして自宅から出られないことで、年齢に関わらず、ストレスがたまったり、運動不足で体調を崩してしまったりすることもある。特に後期高齢者が外の刺激から遮断されてしまうとどうなるだろうか。ジャーナリストの島沢優子さんは、コロナ禍で母親が認知症を発症。施設への入所を選択するしかなかった。今回は23歳の長男もともに実家に帰ったときの様子を伝えてもらう。そこには様々な「親子」の思いが交錯している。

島沢優子さん連載「子育てアップデート~子どもを伸ばす親の条件」いままでの記事はこちら
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半年ぶりに施設で会った母

コロナ禍で、母が痴呆になった。

まだ東京に緊急事態宣言が出されていなかった4月半ば、夫とともにPCR検査をした。九州にある私の実家に戻るためだ。空路や新幹線では帰る途中で感染するかもしれないと、車で片道1200キロを交代で運転。そこまでして帰省したのは、母が私を忘れてしまう前に会っておきたかったからだ。

施設入所のときからおよそ半年ぶりに会った母は、車いすを押されて近づいてきた。私と母を隔てる防火対策用の網入りガラスなので、母の顔が見えにくい。私と夫、愛犬を抱いた弟夫婦を見て、にっこり笑った。無邪気なその笑顔は6つくらいの女の子のようだ。鮮やかな緑色のカットソーの上にベージュのカーディガン。膝の上には入所の時に私が渡したパープルとグレーのカシミアのストールがかけられていた。私との面会があったからなのか、母の白髪は濃い栗色に染められていた。

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ガラスをたたいて「これ、邪魔」と言った。連れ添う施設の職員を見上げて「なんで(外に)出られんの?」と尋ね、職員が「コロナがあるからね」という答えに、わかったような、わからないような曖昧な表情だった。

弟が夫を指し「誰かわかる?」と尋ねたら、こっくりうなずきゆっくり名前を言った。正解だった。夫と会うのは3年ぶりだったので、わからないのではと思ったが安心した。

ところが、ガラス越しの面会中、母は私のほうをほとんど見なかった。私に向かって「東京からわざわざありがとう」なんてことも言わない。弟の愛犬に向かって手を振り、ガラスをとんとん叩いて、犬の名前を呼び続けた。途中で弟が「犬じゃなくて、お姉ちゃんたちと話せよ。なあ」と少し遠慮がちに言った。