第七世代の登場と第六世代の絶望
ラリー:それもやっぱり第七世代の登場っていうのがすごく大きかったんじゃないでしょうか。それまでの世代では、今おっしゃったような芸人同士の主従関係や先輩・後輩関係みたいなものが暗黙の了解として成立していたんですけど、第七世代以降はそれがどんどん薄れてきていて。今はお笑いの世界でもその薄れている状態が当たり前になっているところはありますよね。
原田:たぶん一般社会もかなり近い気がしていて。昔はなんだかんだ言っても上司に威厳があって、極端に言えばパワハラとかもしていたわけじゃないですか。でも、下の人も10年、20年我慢しておけば課長になれたし、気に入られたら引き上げてくれるし。課長になったら経費の枠が増えるっていうご褒美もあった。
こういうのが何となく成り立っていたのが「ゆとり世代(1987〜1995年生まれ)」までという感じがしています。これは本当に僕の肌感覚になるんですけど、ゆとり世代はまだちょっと脅しが通じるというか「そんなことで社会に出たらヤバいぞ」って言うと「あっ、そうか」って納得してくれる感じがあったんです。でも、本当にこの「Z世代(現在10代前半から25歳ぐらいまでの世代)」になってからは、マジでそれが通用しなくなっている感覚があります。
芸能界でもフワちゃんみたいな人が出てきているでしょう。今までは大物芸人に好かれたりテレビ局の人に好かれたりしないとテレビに出られないと言われていたのが、別にYouTubeとインスタでいいじゃん、みたいな。違う道も出てきたことでそんなに迎合する必要もなくなったんですよね。フワちゃんの場合は大物芸人さんにも好かれていますけども。
一方で、大物芸人さんたちの側もエサを与えられるほどの権限がなくなってきた。テレビも視聴率が取れなくなってきて、番組がゴロッと変わったりして、中高年が追い出されたりしている。芸能界と日本社会がすごく似た構造になってきたので、木本さんにも実感していただけるようになったのかなという気がしましたね。
ラリー:なるほど。私も本の中で「第六世代の絶望」みたいなことを書いているんです。第七世代の上にあたる第六世代の芸人が世に出た頃には、まだ年功序列型のテレビのお笑いの世界が強固にあったんですよね。
芸人ピラミッドの頂点にMCがいて、その下にひな壇でそれをサポートする裏回しの芸人がいて。その下にひな壇で要所要所でコメントをする芸人がいて。その下にはそこにも出られないライブ中心の芸人がいる。そこを一段一段上っていくしかない、という感覚があったんです。
でも、これでいつ頂点にいる明石家さんまさんやダウンタウンに追いつけるんだよ、何段上らなきゃいけないんだよ、というふうに、山里(亮太)さんのような第六世代の芸人が途方に暮れたりしていた時期があったんです。
そこで西野(亮廣)さんとか中田(敦彦)さんみたいに「自分はこの戦いからは1回降りて、別のところで戦っていく」って割り切るような人も出てきた。
でも、第七世代になると芸人の上下関係の前提そのものが崩れていて。別に無理にここを上らなくてもいいじゃん、別にテレビに出られなくても自分たちは平気だから、という人も出てきた。彼らはテレビやお笑い界に対してドライな感覚を持っているんですね。
そんな第七世代が上の世代からどう思われるかっていうと、実はそういう人の方が目新しくて面白かったりする。フワちゃんやEXITの兼近(大樹)さんのように上下関係を気にしないでガンガン突っかかってきてくれる方がかわいげがある。そこに逆転が起こっている感じがします。