『ファクターX』、西浦博教授が報告 「考察すると見えてきた“4つ”の事実」

まだ根拠の不確かな楽観主義は危険
西浦 博 プロフィール

「ファクターXがあると感じさせた理由」

流行当初の疫学状況ではこれまで述べた状況と正反対に近く、アジアでは中国を筆頭として流行制御に成功する傾向がありました。欧州や南北アメリカ大陸と比べてアジアでの感染率は低く、世界各地の専門家はもちろん、一般の知識人も、そこには「自分たちは比較的守られている」というような生物学的な決定要因があるものと想像してきました。

実を言うと、私自身も世界の感染状況のコントラストの話について、2020年3月前半に厚労省クラスター対策班内において、東北大学の押谷仁教授に投げかけて話をしたことがあります。「なんでなんですかね」「アジアでの爆発的拡大は、ここまで武漢だけだね」のような会話を複数回しました。多くの研究者が世界の流行状況のコントラストに頭を抱えていたのです。

写真はイメージ(photo by iStock)

そして日本では京都大学の山中伸弥教授がまだ見ぬ防御的要素を「ファクターX」と名付け、その可能性を発信したこともありました。当時は、ウイルス株の違いや遺伝的要因、交差免疫や細胞性免疫(BCGを含む)など、いくつかの候補が挙げられました。

もちろん、その後に多くの研究者がこのファクターXの解明に向けた研究に取り組んでおり、既にいくつか仮説を提唱する研究があります。大切なこととして、その存在は未だ否定されるものではありません。

しかし、ここまでに明確なのは、唯一論的に説明が可能な決定的なものが未だ発見されていない、ということです。そして、いま、アジアでの感染リスクは十分にあって、予防接種が進む、ごく一部の先進国を追い越して、アジアでの流行拡大が世界の流行をリードする状況に至りました。

 

どうして、昨年の時点では「ファクターXの可能性を示唆するデータ」に見えたのでしょうか。これまでの研究や状況などから見えてきたことを中心に、私なりの現時点での考え(反証)を以下に整理して共有したいと思います。疫学的な流行状況のコントラストを観察することを通じて、唯一論的なファクターXが(もし、存在しないとすると)「あるように見えた」理由として次が挙げられます。

(1)改めて、感染リスクには「他との従属性があること」。

(2)中国が2020年2月に自国の流行を素早く制圧したこと。

(3)気温と2次感染リスクの間に負の相関があること。

(4)多くの成功国が渡航制限と検疫に真剣に取り組んだこと。

それぞれについて説明します。

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