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「日本酒には軟水」のイメージの由来は? 名醸地の仕込み水に隠された秘密

酒好きを唸らす日本列島形成史の雑学

「日本酒(SAKE)」は海外の方にも人気で、輸出総額は年々増えているそうです。世界を魅了する日本酒の味はどのようにして決まるのでしょうか?

米? 麹? 酵母? いずれも欠かせぬ要素ですが、もうひとつ重要な原料がありますね。そう、「水(仕込み水)」です。日本酒の宣伝文句に「水」がよく登場することも、その重要性を物語ります。

酒造を支える水の性質を調べてみると、日本列島の地質的特徴がカギを握っていることがわかってきました。酒呑みならばぜひ知っておきたい、日本酒と日本列島の歴史トリビアを、『新版 絵でわかる日本列島の誕生』を上梓した堤之恭氏に解説していただきました。

日本は「軟水の国」

水の質を表す指標の1つとして、「硬度」というものがあります。これは、水のカルシウム(Ca)・マグネシウム(Mg)含有量を示す指標です。WHO基準では、120 mg/L以上を硬水、60 mg/L以下を軟水、中間を中硬水としています(図1)。

図1 硬水・軟水の基準(WHO基準)

硬度の計算
水に含まれてい CaとMgを、すべてCaCO3換算して算出
単位をつける際はmg/Lまたはppmが用いられる(アメリカ硬度)

質量数 Ca:40.08 Mg:24.31 CaCO3:100.01

硬度(mg/L)=Ca濃度(mg/L)×(100.01/40.08)
           +Mg濃度(mg/L)×(100.01/24.31)
        ≒Ca濃度(mg/L)×2.5+Mg濃度(mg/L)×4.1

水の硬度には、なぜばらつきが生じるのでしょうか?

われわれが普段の生活で用いている水(河川水、湖沼水、地下水)は、「陸水」と呼ばれます。陸水の源である雨水の硬度はほぼゼロです。なぜなら、雨水の元である雲を成す水滴は、地表から蒸発した水蒸気が凝結してできる、いわば「蒸留水」だからです。

水の硬度を上げるカルシウム・マグネシウムは、地表の岩石・土壌との接触によって付与されます。よって、岩石・土壌の成分(地質的要因)と、それらと接触する時間(滞留時間)が水の硬度を決めているのです。地形が急峻で降水量の多い日本の水は、総じて滞留時間が短く軟水傾向にあり、水道水の硬度の平均は約50 mg/Lです。

硬度を上げる地質的要因――日本の場合

全体的には軟水傾向とはいえ、硬度が高い場所もあり、それは地質と深い関係があります。

地域的に硬度を上げる地質的要因としては、(1)石灰岩、(2)火山性物質、(3)新しい浅海性堆積層の存在が挙げられます。石灰岩の主成分であるカルシウム・マグネシウムの炭酸塩、火山性物質の火山ガラスなどは、基盤岩(日本列島の「土台」をなす岩石)や花崗岩類を構成する鉱物に比べて溶解・分解されやすいのです。また、新鮮な浅海性堆積物はカルシウムに富む貝化石などを多量に含みます。

実際に硬度が高い地域はどこでしょうか。各都道府県の水道水の平均硬度を見てみると、沖縄と熊本および関東南部で硬度が高めであることがわかります(図2)。

図2 各都道府県の水道水の平均硬度(特別展「和食」公式ガイドブックより)

日本で見られる石灰岩のほとんどは、太古の海洋島でサンゴなどの造礁生物がつくったものです。それらが、プレートの動きによって陸に押し付けられたのです。このような石灰岩を塊状石灰岩とよびます。塊状石灰岩の分布は散在的であり、分布面積も全体からすると狭いので、都道府県単位での硬度を上げる効果は限定的です。

一方、温暖な浅海で石灰質の堆積物がたまってできる石灰岩を層状石灰岩と呼びます。沖縄で水の硬度が高いのは、琉球石灰岩という層状石灰岩が広く分布しているためです。

熊本では多くの場合、豊富な地下水を水源としています。その帯水層が、かつて阿蘇山が巨大噴火を起こしたときの火砕流堆積物であることが、硬度の高い原因です。河川などの表層水に比べて地下水は滞留時間が長く、その間に火砕流堆積物からカルシウム・マグネシウムが付与されているのです。

関東平野は、地質学的時間でいえば「最近」の約10万年前まで、「古東京湾」とよばれる海の底でした。そのときに堆積した地層には多量の貝化石が含まれ、さらに、当時活発に活動していた富士山や浅間山からの火山灰も混ざっています。陸化した後も火山灰の供給は続き、関東ロームという火山灰を主とした地層ができました。これらの浅海性堆積物および火山性物質が硬度を上げる要因と考えられます。

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