失敗したら地獄になる…10年を経て明かされた福島第一原発事故の「真実」

「2号機の危機」 第2回

3つの原子炉が相次いでメルトダウンし、原子炉や格納容器を納める原子炉建屋が次々に爆発するという未曾有の原発事故を描いた『福島第一原発事故の「真実」』(小社刊)が大反響を呼んでいる。

NHKメルトダウン取材班は、10年に及ぶ徹底的な調査報道を通じて、東日本壊滅の危機を免れたのは、吉田昌郎・福島第一原発所長らによる決死の消防注水が功を奏したというよりは、消防注水の失敗や格納容器のつなぎ目の隙間から圧が抜けたりといった幾つかの偶然が重なった公算が強いことを明らかにした。

現代ビジネス、ブルーバックスWebでは、吉田所長が死を覚悟したとされる「2号機の危機」を描いた、同書の6章を全4回の連載で完全公開する。事故発生当時に考えられた事故像を覆す衝撃的な内容は、読むものを震撼せしめるはずだ。

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4号機燃料プール高線量の謎

2号機への注水ラインの作業の指揮をとる一方で、吉田は、もう一つ大きな懸念を本店に訴えていた。

午後1時頃、テレビ会議で吉田が発話した。

「ものすごい気になるのが、使用済み燃料プールで言うと、この3日間くらいで各プールの温度があがってるという情報が入ってきてる」

使用済み燃料プールの問題だった。オフサイトセンターの武藤がまったく同感だと応じた。

「4号機なんかですね。かなり温度があがってるという情報が入ってきて、点検に行った人間が原子炉建屋の中が非常に線量が高くて、ウェッティ(湿っている)というような話もしてるんで、サポートお願いしたいなと」

吉田が口にしたのは3号機が水素爆発する直前に4号機に向かった復旧班の報告についてだった。

復旧班員ら5人が午前9時すぎに使用済み核燃料を保管するプールの水温上昇を抑えるために、4号機の原子炉建屋1階から最上階5階のプールに向かう予定だった。燃料プールの温度は、通常30℃前後だったが、4号機は、14日午前4時すぎには、84℃まで上がっていた。

4号機は、シュラウドと呼ばれる原子炉の中にある巨大な構造物の交換工事が行われていたため、原子炉からすべての燃料を取り出し、プールに入れていた。プールにおさめられていたのは、使用済み核燃料が1331体、まだ使っていない新しい燃料が204体、あわせて1535体あり、2号機や3号機の3倍近くに上った。使用済み核燃料の発熱によって、プールの水温は、電源喪失からじわじわと上がり、60時間あまりの間に、およそ50℃も上昇していたのだ。

湯気を立てる福島第一原発4号機原子炉建屋5階 使用済みの燃料プール

当初の計画では、5人は、4号機の燃料プールと接している交換機器の貯蔵用のプールに満たされている水をポンプで汲み上げて、燃料プールに注ぎ、冷却するはずだった。ところが、二重扉を開けた途端、5人のポケット線量計のアラームが鳴った。しかも、建屋の中は、真っ白い霧のように蒸気が立ち込めていた。4号機は原子炉は運転停止中でいくら燃料プールの水温が高いといっても、100℃もいっていない。4号機で放射線量があがる理由がわからなかったが、5人は撤退せざるを得なかった。

この報告を聞いて、吉田は、なんとか手を打たなければいけないと思っていた。温度が上昇しているのはもちろんだが、本店に「ウェッティ」と言ったように、建屋の中に白い蒸気が立ち込めているのも気がかりだった。同様の報告を受けた復旧班長も嫌な予感を禁じえなかった。原子炉建屋の中に白い蒸気が立ち込めているのは、1号機と3号機の水素爆発を起こす前の現象と同じだったからである。

しかし、4号機は、他の号機と違って、定期検査中で、燃料は原子炉に入っていない。どう考えても、燃料がメルトダウンして、放射性物質を発生させるわけはない。

この報告を聞いた免震棟の幹部の誰もが、首をひねるばかりだった。

4号機の原子炉建屋に白い蒸気が立ち込め、放射線量が上昇していた理由は、重大な危機が4号機に迫っている兆しだった。しかし、この時点で、その理由を免震棟も本店も誰一人として気がつくことはできなかった。

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