こうした“最もアメリカらしい映画”が、中国出身の若手監督によって制作されたことも興味深いが、とはいえ、本作は、れっきとしたアメリカ映画である。
それもハリウッドの大手スタジオのウォルト・ディズニー・ピクチャーズのアート系のレーベル「サーチライト・ピクチャーズ」(旧名・フォックス・サーチライト・ピクチャーズ)の作品だ。外国人監督の作品といっても昨年作品賞・監督賞をW受賞したポン・ジュノの『パラサイト』とは根本的にポジションが異なる。
しかもジャオは、ディズニーのMCU(マーベル・シネマティク・ユニバース)の大作『エターナルズ』(2021年11月5日に全米公開予定)の監督に抜擢された、ハリウッドの売出し中のことも付け加えておこう。
アカデミー賞は新時代を迎えたのか
さて、クロエ・ジャオがフィーチャーされたことで、これまで保守的とさんざん叩かれてきたアカデミー賞は一見、新時代を迎えたように見える。が、果たしてそうなのか?
2015年、2016年と2年連続でアカデミー賞にノミネートされた俳優20人中ひとりも非白人がいなかったこと、さらには2017年の#MeTooムーブメントも追い風となり、この5年間、映画芸術科学アカデミー(AMPAS)は女性や非白人の新会員を毎年、大量に増やし、ダイバーシティやジェンダーギャップの是正に向けて取り組んできた。
2020年に新会員に招待された者の49%が外国人で、45%が女性で、2015年には6400人程度だった投票権を持つ会員は9600人以上に増えた。もっともそのうち女性会員はまだ34%というから、男女平等にはほど遠いが、成果は上がっているとAMPASはアピールしている。
ジャオの躍進は、新しいアカデミー賞のイメージアップには役立つかもしれない。