2021.05.07
# 映画

映画『ノマドランド』はどれほどの傑作なのか…アカデミー賞圧勝が象徴するもの

立田 敦子 プロフィール

「ドキュメンタリーではない」ということ

本作がドキュメンタリーではない点にも着目したい。

ジャオは、フィクションの力を信じている。もし、行き詰まった資本主義を糾弾したいければ、ドキュメンタリーで描くこともできただろう。けれど、ジャオの目的はそこにはなかった。

現実を批判することよりも、彼女の視点で捉えた、多層化し複雑化したアメリカの現実を描くことで、アメリカが抱えている問題とともに、アメリカが本来持っているはずのおおらかさや自由、たくましさ示し、人が生きていくこととは何かを問いかける。

©2021 20th Century Studios. All rights reserved.
 

ファーンは、実姉や旅の途中で親密な関係になるデイブ(デヴィッド・ストラザーンが演じている)から、彼らの家に留まるように誘われる。

映画に登場する本物のノマドたちの中にも、あえてノマド生活を選んでいる人たちがいる。会社に通い、住宅ローンの返済に追われ、子どもを育てあげたら、老後を迎えるーーといった安定した生活を捨てて、肉体的な過酷さや生活の不安定というリスクを負ってでも違う人生を選び取りたいという人々だ。

孤独ではなく、人と人とのつながり。疎外感ではなく、開放と自由。本作では、ノマドのといったポジティブな面にも光が当てられている。資本主義社会で生きづらさを感じた人々が、アメリカン・ドリームの呪縛から逃れ、希望を見出したひとつの選択肢が“ノマド”なのである。

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