撮影やサウンドのこだわり
映画はネバダ州エンパイアに住む60代の女性ファーン(フランシス・マクドーマンド)が、夫と家を失ない、車上生活者となるところから始まる。
キャンプ場管理スタッフやファーストフード店、アマゾンの配送センターなど仕事を転々としながら、“ノマド”として生きる仲間たちに出会い、さまざまなサバイバルの方法を学んでいく。
ロードムービー・スタイルの本作は、サウスダコタ、ネバダ、アリゾナ、カリフォルニアなどを6ヵ月かけて旅をしながら撮影されたが、フレキシビリティが要求されるロケに対応できるように撮影陣は精鋭で編成された。
撮影監督はジャオの私的パートナーでもあり、『ザ・ライダー』やフランシス・リーの『ゴッズ・オウン・カントリー』を手掛けた若手カメラマンのジョシュア・ジェームズ・リチャーズ。
『ザ・ライダー』と同様、アメリカの原風景ともいえる西部的な大地を捉えたダイナミックな映像は、本作の評価を高めたポイントのひとつだ。
アカデミー賞監督賞を受賞したアルフォンソ・キュアロンの『ROMA/ローマ』やアレハンドロ・ゴンザレス・イニャリトゥの『バベル』などにも参加したサウンドデザイナー・セルヒオ・ディアスは、過剰な演出を入れない「正直な音」でファーンの旅路に寄り添った。
設定は与えられているものの、プロの俳優ではない出演者と、彼らに上手く反応するマクドーマンド、そしてジャオの即興的な演出は、本作にぬくもりとリアリティをもたらした。
さまざまなバックグラウンドを抱えたノマドたちがどのように仲間をつくり、病気やアクシデントに対処し、生き抜くのか。カメラはその生活に入り込み、内側から描き出すことで、観客の心の目を開かせる。