哲学者が考える「独学」を効果的に実践するための“メタ方法論”

独学者のための「知性の取扱説明書」
山野 弘樹 プロフィール

思索のためのステップ2――論証する(1/2)

第2のステップは、「論証する」ということです。

第1のステップが「出発地点を設定すること」であったならば、第2のステップは「そこから実際に走り出してみること」を意味します。

論証する思考能力は、さしあたり次の三つの能力から構成されていると言えます。

A. 分節力

B. 要約力

C. 結合力

A.【論証する思考力の第1のフェーズ――分節力】

まず「分節力」とは、相手の主張ないし自分の主張を、(単語や概念などの)個別の要素に分けていく技法を指します。

私は、本記事を読んでくださっている読者の皆さまに、ぜひ強く推奨したいことがあります。

それは、読書をするとき、可能な限り書き込み(分節化)を行いながらテクストを読み進める方が良いこということです。

書き込みをしないまっさらな読書は、理解や記憶の定着にほとんど役立ちません。(たいていの場合、非常に非生産的な再読を強いられることになります。)

反対に、丁寧に書き込み(分節化)を行った書籍は、あなたにとって世界に一冊の、かけがえのない知的財産になります。

それでは、分節化とはどのように行えば良いのでしょうか? 

ここでは、分節化の6つの技法を紹介したいと思います。

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Aー1[「形」の観点から分節化を行うパターン]

1. 単語を囲む。

2. 傍点を打つ。

3. 文章に線を引く。

1 単語を囲む

テクストの精読を行う際、まずは重要そうな単語や概念(ないしフレーズ)を、「四角」や「丸」等で囲んでいくことを推奨します。

重要な単語や表現をこのように囲うことのメリットは、端的に再読の際に見やすいという点にあります。また、こうした「ひとまとまりの情報」「チャンク(chunk)」と言うのですが、チャンクを単位に議論を理解していくことは、記憶法としても非常に効率が良いです。

(例えば先ほどの『読書について』の中には、「人間」の本質を表す表現として、「我々の存在、この曖昧な、苦悩にみちた存在、このつかのまの夢にも似た存在」というフレーズがあるのですが、これは一つの「四角」でまとめて囲んでしまうことをお勧めします。このフレーズの中にある「我々の存在」や「苦悩にみちた存在」という表現を個別に四角で囲っても、無用な情報量が増えてしまうだけだからです。)

また、チャンクを囲んでいく方法として、「四角で囲む」、「二重の四角で囲む」、「丸で囲む」、「マーカーを引く」というものが挙げられます。(マーカーを文章全体に引くことは推奨できません。どこにポイントがあるのか分からなくなり、再読の際に不便です。)

テクストを読む中で、複数の仕方でチャンクを囲むようにすると、再読する際に強調点をすぐに確認することができて便利です。

(例えば、ある程度重要なフレーズは「四角」で囲み、さらに重要なフレーズは「二重の四角」で囲む……という風に、重要度を区別しながら分節化していく方法が効率的です。)

2 傍点を打つ

傍点とは、「傍(そば)の点」と書くように、言葉の上部(横書きの場合)や右側(縦書きの場合)に打たれた点のことを指します。

傍点を打つことの最大のメリットは、再読の際にすぐにその箇所を見つけることができるというものです。

難解で、かつ分厚い本を読んでいる場合、「あの表現はどこにあったっけ?」という風に該当箇所を探し続けてしまうということが頻繁に生じます。ですが、傍点を打った箇所は非常によく目立ちますので、こうしたタイムロスを無くすことができます。

先ほどのチャンクの囲み方とは異なる仕方で文章に力点を置くことができますので、より立体的な仕方で文章の「抑揚」を分節化していくことができます。

3 文章に線を引く

どのような著作であれ、筆者はある種の「決め台詞」のような文章表現を置いてくるものです。それは段落のまとめであったり、粋な比喩表現を用いての説明であったりします。こうした「その段落全体を象徴するような文章」を見つけた際には、その文章全体に線を引くことを推奨します。

もちろん、「線を引く」というのは、上述の2つに比べて網目の粗い強調点の付け方です。ですので、線を引くという行為に対しては禁欲的になるべきです。(引きすぎるとページの情報量が増え、再読の際に非常に読みづらくなります。)

さて、これまでの3つの技法を踏まえて、再びショーペンハウアーの文章を取り上げつつ、実際に分節化の実践例を紹介したいと思います。

例:我々自身の(・・・・・)精神の中にもえいでる思想はいわば花盛りの春の花であり、それに比べれば他人の本から読み取った思想石にその跡をとどめる太古の花のようなものである」(8頁)

私はこの文章の中で、まず「我々自身の精神の中にもえいでる思想」・「花盛りの春の花」に黄色のマーカーを引き、「石にその跡をとどめる太古の花」に青色のマーカーを引いています。また、「他人の本から読み取った思想」は太字にしていますが、本に書き込む際は単純に黒のボールペンを用いて四角く囲っています。(※色分けについては後述。)

そして、「我々自身の」という力強い表現に対して、傍点を打っています。

さらにそのうえで、この一文全体に線を引いています。(しかも、他の線を引いた文章との重要性の違いを区別するために、二重線を引いています。)

ここまで行うことで、

(1)重要なポイントを一目で把握することができる(見やすい!)

(2)覚えるべき箇所を取捨選択できるので、記憶として定着しやすい(覚えやすい!)

(3)再読する際にその箇所をすぐに見つけることができる(見つけやすい!)

という3つの効用を期待することができます。

また、この流れで分節化のもう一つのパターンを取り上げたいと思います。

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Aー2 [「色」の観点から分節化を行うパターン]

・赤色=筆者が肯定的・積極的に捉えている箇所(※赤色の上位互換=黄色)

・青色=筆者が否定的・消極的に捉えている箇所

・緑色=純粋に知識として勉強になる箇所

上述の色分けパターンは自由に組み替え可能だと思うのですが、私は個人的にこうした色分けを行いながらテクストを精読しています。

(※「黒色」はさしあたり中立的な評価にとどめておきたいときに使用しています。ひとまず重要そうな単語を四角く囲み、後から著者の評価が判明した時に、赤色(黄色) or 青色のマーカーで着色することで、議論の核となる表現をチャンクとして整理することができます。)

先ほどの例で言うと、ショーペンハウアーは「我々自身の精神の中にもえいでる思想」・「花盛りの春の花」に大きな肯定的価値を与えているので、これらに黄色マーカーを引きましたし、反対に「石にその跡をとどめる太古の花」は、そうした能動的な思考プロセスの痕跡でしかない存在ですので、そこには青色マーカーを引きました。(「他人の本から読み取った思想」を黒色にしているのは、ショーペンハウアーは決して「読書」自体を否定しているわけではないからです。実際139頁において、彼は「精神のための清涼剤としては、ギリシア、ローマの古典の読書にまさるものはない」と断言しています。)

こうした色分けを丁寧に行っていくと、重要な箇所や、それぞれの概念の対立関係が一目で分かりますので、再読の際に非常に便利です。

ですが、色分けに関しては一つ問題があります。それは、色分けをしている本が難解であればあるほど、色がすぐに足りなくなってしまうということです。

現実問題として、1冊の本に登場してくるすべての概念にそれぞれの色を対応させるわけにはいきません。

そこで本記事においては、「せめて見開きページの中では、色分けのルールを統一させる」という原理を提案したいと思います。折衷案ですが、これによっておおむね有効な仕方で色分けを続けていくことができるでしょう。

このように、複雑な議論の中で重要な点を容易に識別させ、さらに再読の際に余計な手間をかけさせないようにする工夫こそが分節化の技法であり、それによって少しずつ訓練されていくのが「分節力」に他なりません。

こうした分節力こそが、「論証する」という思考力の第1のフェーズです。

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