哲学者が考える「独学」を効果的に実践するための“メタ方法論”

独学者のための「知性の取扱説明書」
山野 弘樹 プロフィール

思索のためのステップ1――問いを立てる

先ほど、知識とは単なる痕跡であり、より根本的なのは痕跡を生みだす思索のプロセスそのものであるという話をしました。

独学をするときに習得すべきなのは、知識そのものではなく、自ら思索するという体験そのものなのです(知識の習得は、その結果として付いてくるものです)。

そこで本ページから、私たちは「思索」の方法(=独学のメタ方法論)について3ステップで考えていきたいと思います。

あらかじめその3ステップを明示すると、次のようになります。

ステップ1:問いを立てる(9つの問い)

ステップ2:論証する(分節力/要約力/結合力)

ステップ3:図解する

最初のステップは、「問いを立てる」ということです。

思考の出発点は、何をおいても問いを立てることに他なりません。

「どうして~~なのか?」、「そもそも○○とは何なのか?」と問うことによってこそ、初めて人間の思考は能動的に働き始めます。思考を誘発するもの、それこそが問いです。

ですが、「じゃあ何でも問えばいいのか」というと、そういうことでもありません。

例えば、無自覚的な差別意識を含んでいる問いも世の中にはたくさん存在します(例:「どうして女性には感情的な人が多いのか?」という問いには、すでに人間を「男性/女性」に二分し、さらに女性に低い地位を与えるというバイアスが潜んでいます)。

さらに、「そのように問いを立ててしまったら、早い段階で答えが出てきてしまう」という問いもあります(例:「1+1は?」という風に問いを立ててしまうと、基本的には「2」という答えしか出てこないでしょう)。

そうした問いは、別の角度で問いなおすことによって訂正・更新されるべきです。

それでは、日常生活の中で思考したり、読書をしながら思考したりするときに「導きの糸」となるような問いとは、どのようなものでしょうか?

本記事においては、「思考の出発点」となる9つの問いを提示してみたいと思います。

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1【普遍性を探究する問いのパターン】

1.「それは、本当に他のすべての事柄に当てはまるのか?」

2.「なぜそう言えるのか?」

3.「そもそも、○○とは何だろうか?」

フォーマル(ないしパブリック)な場面で何らかの主張を行うとき、「その主張はどこまで広く当てはまるのか(普遍的なのか)?」ということが必ず問われます。(普遍性とは、「いつでも・どこでも・誰にでも当てはまること」を意味する言葉です。)

そして、この問いのグループは、そうした普遍性を探究する際に有効な問いです。

例えば、「理性的に判断すれば、常に正しい選択をすることができる」という主張に対して、

・「それは、本当に他のすべての事柄に当てはまるのか?(例外があるんじゃないか?)」

・「なぜそう言えるのか?(別の立場を取れば、全く別の見解が出てくるんじゃないか?)」

・「そもそも、「理性」とは何だろうか?(本当に「理性」は「感情」を含まないのだろうか? また、「理性」と「知性」とでは何が違うのか?)」

などと問うことで、私たちは思索を行うための出発地点を設定することができます。

(しかも、この普遍性を問う問いは、ほぼすべての主張に対して当てはめることができます。例えば、「感染予防の観点から見てマスクの着用は無意味である」とか、「コロナはただの風邪である」といった主張に対しても、同じ問いを発することができるでしょう。)

このように、走り始める(考え始める)ための出発地点を選ぶ(問いを立てる)ということが、非常に重要になってきます。ここで出発地点の選択をミスしたままだと、いくら走り続けても目的地に到達することはできないでしょう。

2【具体性を探究する問いのパターン】

4.「それは、例えばどのような事態を想定しているのか?」

5.「○○という言葉で、何を意味しているのか?」

6.「何がきっかけで、そのように考えるようになったのか?」

この問いのグループは、具体性を探究する際に有効な問いです。

あるトピックについてちゃんと語ろうとすると、どうしても抽象的な言葉が頻出しがちです。ですが、抽象的な言葉をなぞるだけでは、その言葉を真に理解したことにはなりません。

ここで大切なのは、「抽象的な言葉を聞いたときに、ちゃんと具体的な場面(イメージ)を想像することができるか?」ということです。そこで役立つのが、先ほど挙げた3つの問いです。

例えば、「哲学など人生において無用である」という主張に対して、

・「その主張は、例えばどのような事態を想定しているのか?」→子どもも大人も実学を学び、誰も哲学書を読んでいないという事態が想定されている。

・「『哲学』という言葉で、何を意味しているのか?」→「抽象的で意味不明な言葉の羅列」という内容が意味されている。

・「何がきっかけで、そのように考えるようになったのか?」→大学生のときに、つまらない哲学の授業を受けさせられて腹が立った。

などと問うことで、「哲学など人生において無用である」という文章の意味を理解することができます。(今回は分かりやすい例文を取り上げましたが、さらに複雑で抽象的な文章に対しても、同じように具体性を問うことができます。)

3【自らの信念との比較・照合を行う問いのパターン】

7.「相手の主張に賛成か?(賛成だとしたら、その理由は何か?)」

8.「相手の主張に反対か?(反対だとしたら、その理由は何か?)」

9.「相手の主張と自らの主張との間に両立可能性はあるのか?(お互いに別の主張を行っているが、もしかしたら相互に衝突はしていないのではないか?)」

この問いのグループは、自らの価値観や信念体系を構築する際に有効な問いです。

ただの知識の断片は、頭の中を右から左へ通り抜けてしまいます。相手の主張を、「自らの信念として採用できるか? 否か?」と問うことによって、私たちは自らの価値観や信念体系のネットワークを構築することができます。

信念体系とは、言わば人生の指針です。信念体系がない人は、常に判断に迷い、周りの人と同じような判断を下すことになります。揺るぎない信念こそが、人を首尾一貫した行動へと導くことが出来るのです。

もちろん、価値観や信念体系は常にアップデートされるものです。新しい思考プロセスを追体験することによって、これまでの価値観や信念体系は柔軟にその姿を変えます。こうした(良い意味での)信念体系の「未完結性」こそが、人々をさらなる対話へと導くのです。

以上が、「思考の出発点」となる9つの問いでした。

続けて私たちは、「思索」の方法(=独学のメタ方法論)を実践するためのステップ2を解説していきたいと思います。

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