哲学者が考える「独学」を効果的に実践するための“メタ方法論”

独学者のための「知性の取扱説明書」

「独学」が必要とされる時代

「確実な答えがない」と言われる時代の中で、いかにして自ら思考する力を身につけられるのか。

――こうした問いに引き寄せられるかのように、いま「独学」についての本が非常によく売れています。

学校教育だけでは学ぶことのできない知性を、多くの人たちが欲しているのかもしれません。

ある種の「独学ブーム」の到来なのでしょう。

ですが、「確実な答えがない」と言われる時代の中で、人々はなおも「確実な一つの答え」を欲し続けているように思えてなりません。

例えば、「この本を読めば賢くなります」といった類の本がよく出版され、人々によく読まれています。それは、「最短で頭を良くするための勉強法の答え」を人々が欲しているからです。

また、SNSの中では、世界の状況を極端に単純化して捉えるようなデマや陰謀論が幅広く支持されています。それは、「この世界の真実を教えてくれる答え」を人々が追い求めているからこそ起こっている状況です。

「確実な一つの答えを知りたい」という欲望が、人々の心を突き動かしています。しかも、「自分だけが確実な答えを知っている」という風に思えることは気持ちのいいことですから、そうした欲望を満たしてくれそうな話を人々は好んで聞きます。

「独学」とは、文字通り「独りで学ぶ(自分の頭で学び、考える)」ということです。答えのない時代であるからこそ、独学の方法論を学ぶことには大きな意義があることでしょう。

ですが、「独りで学ぶ」からこそ、人々はある知識を無批判に受け入れてしまったり、ある知識を過剰に否定してしまったりするということがありえます。

確実な答えを追い求めてしまう欲望の時代の中で、「独学」とは言わば「諸刃の剣」なのです。

それは、使い方を誤ると独断的な思考法を生み出すことに繋がりかねません。

こうした状況を受けて、本記事においては、哲学研究のプロセスの中で培ってきた「メタ」的な観点から「独学」の方法についての解説を行いたいと思います。

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いったいなぜ、「哲学者の思考法」が独学の方法に役立つのでしょうか?

それは、人々の思考を誘発する「問い」を生み出す言語化の技法こそが「哲学」に他ならないからです。

多くの「独学法」や「○○シンキング」に関する本の中では、よく「問いが大事だ」、「たくさん問いを出そう」といったことが書かれています。「仮説を立てることが重要だ」とも書かれています。

ですが、そうした本の中で、「ではどのように問いを出すのか?」ということまで説明をしてくれる本はほとんどありません。問いの出し方を説明してくれないのに、「思いつく限りたくさん問いを出そう」、「その中から本質的な問いを見つけよう」と書いてある本まであります。

しかし、それでは、私たちはどのようにして問いを出せば良いのでしょうか?

また、どうすれば、そこから本質的な問いを見つけることができるのでしょうか?

哲学者の思考法を習得するメリット、それは、「問いのパターン」「その問いのパターンを活用するタイミング」の双方を明確に提示してくれるところにあります。

そして、「いかに問うのか?」ということは、「いかに思考するのか?」ということに他なりません。「問い方」を学ぶということは、「思考法」を学ぶことに他ならないのです。

一般的に学ばれている「独学の方法論」は、言わば「思考のツール」です。思考に役立つたくさんの道具を、私たちは獲得することができます。

ですが、いくら便利なツール(ないしメソッド)を獲得したとしても、それらを使いこなすためのスキル(思考能力)が備わっていなければ、宝の持ち腐れになってしまうでしょう。

だからこそ、独学のメソッドを学ぶことの前に、「思考法」(考え方の技法)そのものを体得する必要があるのです。

したがって、本記事が提示するのは、単なる独学の方法論ではありません。

・「知識とは何か?」

・「学ぶとはどういうことか?」

・「どのような問いを立てれば良いのか?」

・「何のために独学をするのか?」

こうした独学の根本問題に取り組みつつ、より良い人生や他者との関係性を構築するために学ばれるべき思考の技法――それこそが、本記事が提示する「独学のメタ方法論」なのです。

◇◇◇◇◇◇

本論に入る前に、本記事の構成について簡単に説明をしたいと思います。

本記事においては、まず「知識とは何か?」というところから問い直します。

独学によって得られるのは基本的に「知識」である(と思われている)わけですから、正しい独学の方法論を考えるためには、まずは「知識」の本性やその性質についてしっかり考えなければなりません。

(もし「実践的な話」をすぐに読みたいという方がいらっしゃいましたら、本記事の3ページ目[思索のためのステップ1――問いを立てる]から読んでいただいても大丈夫です。)

そのうえで本記事においては、「知識」そのものを生み出す「思索」(考え方)の技法を、「問いを立てる」・「論証する」・「図解する」という3ステップで説明することで、独学のメタ方法論についての解説を行っていきます。

そして最後に、「人を「独学者」にするものは何か?」という問いに対して一つの回答を与えることで、本記事を締めくくりたいと思います。

繰り返しになりますが、方法論とは道具でしかなく、重要なのは、そうした道具を使いこなす知性そのものです。

私たちには、道具のトリセツよりも、それを使いこなす知性そのものの取扱説明書が必要です。

方法論を巧みに使いこなすための思索の技法――それこそが、本記事が論じる独学のメタ方法論なのです。

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