加藤シゲアキさんの『オルタネート』と武田綾乃さんの『愛されなくても別に』がW受賞となり話題の第42回吉川英治文学新人賞。4月9日に行われた贈呈式では、同賞の選考委員を務める恩田陸さんが「対照的な二作品ですごく面白く読んだ」と賛辞を贈った。高校生限定の架空SNSアプリでつながる人間模様を描く『オルタネート』と、毒親や貧困問題を抱える大学生たちの交流を描く『愛されなくても別に』。ともに「今を生きる若者たちの青春模様」を描く小説でありながら、なぜ対照的と評されるのか。また、今の時代にこの二作が選ばれたワケを考察する。

「華麗なる一族」のような、吉川英治文学賞、文庫賞、新人賞受賞の皆様。表紙の左上から時計回りに、文学賞を受賞した村山由佳さん、昨年に新人賞、今年文庫賞を受賞した今村翔吾さん、今年新人賞を受賞した武田綾乃さん、加藤シゲアキさん。「小説現代」ではインタビューも掲載
 

「好対照の2冊」そのヒントは「選評」に

今年の第42回吉川英治文学新人賞(公益財団法人吉川英治国民文化振興会主催、講談社後援)は、加藤シゲアキ『オルタネート』(新潮社)と、武田綾乃『愛されなくても別に』(講談社)の2作同時受賞となった。
ジャニーズの現役アイドルが受賞したことでかなりの注目を集めたが、実はどちらも今を象徴する清冽な青春小説である。しかも前者は光の面から、後者は闇の面から現代に生きる若者たちをぐっとつかみ取ってみせた。
両極を描いて好対照をなしているわけだが、期せずしてこの2作を読めば、今という時代を体感することができる。
好対照ぶりについて、「小説現代」2021年5・6月合併号に掲載されている選考委員たちの講評が面白いので、そこから分析してみよう。

「見たくない」ものを「不可視」にした
『オルタネート』

『オルタネート』には、「光を感じる」(伊集院静)、「健全」(大沢在昌)、「清新な青春小説」(恩田陸)、「清々しかった」(重松清)と、ストレートにポジティブな言葉が並ぶ。

吉川英治4賞の贈呈式会場に飾られていた受賞作、加藤シゲアキ著『オルタネート』。 選考委員の恩田さんは贈呈式で『オルタネート』については「何者でもない、何者かになりたいと思っているヒリヒリ感を端正に描いていた」と語った 撮影/森 清

一方で『愛されなくても別に』は、「不健全」(大沢)の言葉に代表される。しかしその先に「不健全を突き抜けた爽々しさのようなものがあった」(大沢)、「決して何も解決はしていないのにどこか清々しい印象を受けた」(恩田)、「あるのは『別に』の一言に象徴されるぎりぎりの肯定だけ」(重松)といった意見が並ぶ。

同じく贈呈式会場に飾られていた受賞作、武田綾乃著『愛されなくても別に』。選考委員の恩田さんは贈呈式で「タイトルが素晴らしい。彼女たちの諦め、強がり、寂しさ、渇きが込められていて、端的にすごくいいタイトル」と語った 撮影/森 清

京極夏彦はこうした評価ポイントの違いの一つに、小説の構造の違いを挙げる。
京極は「あらゆる事象には、無限の”相”がある」としたうえで、「小説は、任意に選び取った複数の”相”を階層(レイヤー)として重ね合わせ、疑似的に現実を再構築させる装置としてある」と説明する。

そして、『オルタネート』は「読者が見たくないだろうレイヤーを不可視にしている」。他方、『愛されなくても別に』は「正反対に見たくないレイヤーを最前線に配置する」と指摘する。
ここで挙げられた「見たくないレイヤー」とは、簡単に言えば影、闇の部分である。当然のことながらそれぞれの書き手はレイヤーの選択に自覚的であることはそれぞれの発言からも明確だ。