映画『海辺の彼女たち』より©2020 E.x.N K.K. / ever rolling films

ベトナム人技能実習生たちが生きる「もう一つの日本」の現実

映画『海辺の彼女たち』監督に訊く

たった一本の映画が観る者の人生を変えることがある。5月1日公開の『海辺の彼女たち』(ポレポレ東中野ほか全国順次公開)もおそらくそういった力を秘めた作品だ。在日ミャンマー人の家族愛を描いて話題を呼んだ前作『僕の帰る場所』(2018)に続き、今度は日本の片隅で不法に働くベトナム人技能実習生たちにスポットを当てた藤元明緒監督(33)に話を聞いたーー。

“いるのにいない人たち”の物語

物語は3人のベトナム人女性が実習先から失踪するシーンで幕を開ける。慌ただしく詰めた荷物を抱え、言葉少なに夜道を急ぐ3人。不当に過酷な職場から脱走を図り、ブローカーを頼りに辿り着いたのは、雪深い漁港だった。そこで働き始めた彼女たちを待ち受ける運命とは……。

「僕の妻がミャンマー出身の元留学生ということもあって、以前、『失踪を考えている』という技能実習生から相談を受けたことがあったんです。結局、その人とは連絡が取れなくなってしまいましたが、気になって、それから彼らについて調べるようになりました」(藤元監督)

藤元明緒(ふじもと・あきお)  映画監督。1988年大阪府生まれ。大学で心理学・家族社会学を学んだ後、ビジュアルアーツ専門学校大阪放送・映画学科に入学。長編初監督作品『僕の帰る場所』(2018)で、第30回東京国際映画祭「アジアの未来」部門作品賞受賞。『海辺の彼女たち』は2021年5月1日よりポレポレ東中野ほか全国順次公開。

現在、日本には約40万人の技能実習生がいるが、出入国在留管理庁によれば毎年全体の約2%が失踪すると報告されている(2019年は8796 人)。

技能実習生の失踪や制度そのものの歪み、また一部の監理団体並びに受け入れ企業の腐敗などはすでに大きな社会問題にもなっている。

「たしかにニュースや報道番組で取り上げられることは多い。でも、その割に、私たちが彼らと接する機会は多くないように思うんです。積極的に関わりを持とうとしなければ、ほとんど交わる機会がない人たちですよね」

約40万人の技能実習生の中には、作中の主人公たちのように漁港で働く人がいれば、農家や工事現場で働いていたり、工場のラインに立ってコンビニの弁当や惣菜を作る人もいる。ある意味では、日本人の生活を下支えしている存在と言っても過言ではない。

だが、 “彼ら”が「どういう人たちで、どういう生活をしているのか」と聞かれれば、「ほとんど何も知らない」と答える人が多いはずだ。“いるのにいない人たち”、とも言えるかもしれない。

映画『海辺の彼女たち』より©2020 E.x.N K.K. / ever rolling films
 

「私たちと彼らは、物理的な距離はとても近いのに、心の距離が遠いように思うんですよ。町ですれ違うことはあっても、それ以上の関係にはなりづらい。でも、ほんのちょっと意識するだけでその関係性は変わっていくはずです。

映画を作っている僕に何かできることがあるとすれば、作品を通じて、少しでも彼らのことを知って興味を持ってもらうこと。そして、彼らに対する想像力の射程距離を伸ばしてもらうこと。そのうちに、そういう(日本に働きに来ている外国人たちとの)輪が広がっていけば、わずかながらでもこの作品を撮った意味もあるのかなと思っています」

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