妊娠・出産するときに、鈴ノ木ユウさんの漫画『コウノドリ』で見ていたような「何か」が自分の身に起こると思う人は、そんなに多くないだろう。あれはマンガであり、ドラマであり、まさか自分がその場にいることになるなんて……小説家で歌人の加藤千恵さんもそう思っている一人だった。その「まさか」を体験し、自分自身の出産経験や取材を通し、NICU(新生児集中治療室)を舞台にした小説『この場所であなたの名前を呼んだ』を上梓した。

出産した子どもが即NICUに入ることになった母親、NICUの看護師やケアマネージャー、出生前診断で陽性反応が出た夫婦、NICUの清掃員、新生児医療を担当する医師……NICUに関わる人々を主人公にとしたオムニバス小説の形だ。それぞれに人生や悩みがあり、それぞれの思いや行動がリンクしていってはじめてわかる現実もある。だれも、どうしても自分のいる位置や片方の位置からものをみてしまいがちだけれど、他の視点を考えるだけではっとした気づきもあると教えてくれる。何より、命がどれだけ尊く、奇跡的なものなのかということも――。

そんな加藤さんが参考図書にした一冊が、FRaUwebにて「出生前診断と母たち」を連載している出産ジャーナリスト・河合蘭さんの『安全なお産、安心なお産―「つながり」で築く、壊れない医療』(岩波書店)だったという。その河合さんが加藤さんに、彼女が「小説に書かずにはいられない」と感じた体験を伺った。

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「ひとりっ子の自分は産んだ方がいい」

加藤さんが「子ども」について真剣に考えるようになったのは30歳を過ぎた頃で、父親が孫を強く希望していた。ひとりっ子の自分は、結婚も出産も無関心ではいられないのだろうと昔から思っていた。
友人たちの間でも不妊治療の話が出始め、30代半ばで妊活を意識し始めたところすぐに結果が出た34歳での妊娠。
産婦人科に行くと、8月のお盆の時期が予定日だと言われた。そこからしばらく加藤さんの妊娠は順調に経過し、まさか自分の子どもに危機が迫るとは考えもしなかった。

「私、羊水検査も受けているのですが、異常はないと言われて安心していました」
加藤さんは、そんなことも教えてくれた。
最初に受けたのは詳しい胎児超音波検査と血液検査も組み合わせるコンバインドテストというもので21トリソミー、18トリソミー、13トリソミー三つの染色体異常について確率がわかる。

すると、加藤さんは21トリソミーのある確率が150分の1と言われた。これは年齢の平均の2倍であるため不安になり羊水検査を受けたところ、染色体異常はないという結果が出た。その後は、北海道への里帰り出産なども予定していたため「東京での遊び納め」という気持ちもあり、外出や外食などを繰り返していたという加藤さん。

2018年5月、妊娠中に友人たちとの脱出ゲームにいったときの加藤さん 写真提供/加藤千恵

ところが、6月に北海道へ帰郷後、最初の妊婦健診で気になることを言われた。
ふたつあるはずの腎臓が片方見えない、と言われたんです。無痛分娩ができるので選んだ個人クリニックだったのですが、突如『医大へ転院してください』と言われて、正直、何のことかよくわかりませんでした」

幸い、もう片方の腎臓は正常に働いているようなので、医師の話によるとさしあたって深刻な問題が起きるわけではないらしい。ただ生まれてから検査は必要であり、また、転院先の医大は無痛分娩を実施していなかった。友人から大変な難産の話を聞いていた加藤さんは、陣痛への恐怖心にかられた。