悔し涙の理由

玉井選手は昔から負けず嫌いで涙もろい。2018年6月、シニアデビュー戦でのこと。1本目の演技で台から足を滑らせ、得点は0点。過度な緊張ゆえのあってはならない大失敗だった。演技後のインタビューで玉井選手は人目を憚らず涙を流し、悔しさを滲ませた。
更に、2019年6月、スペインで開催された飛込GPでの国際大会デビュー戦。決勝まで進出し、メダルに手が届く位置にいたが緊張していい演技ができず、4位で終わった。彼はこう振り返る。

「緊張していたんですけど決勝まで行くことができて、結構調子上がってきてるなって感じだったんですけど、最終的な順位は4位で、自分なりにもっとできたんじゃないかって。最初の目標は決勝に行ければいい、だったのに、周りの人からの期待に応えたいという気持ちもあって決勝の途中からメダルを意識してしまいました

きっと多くのアスリートはいい成績をとった後、自分自身に過度な期待をしてしまう。そして周囲の期待に過剰に答えようとする。それが、知らぬ間に己にプレッシャーをかけ、潰されることもある。それに、玉井選手は14歳にして気がついた。また、カメラの前で涙を流す。それは玉井選手の10代らしい弱さとそれを表現できる強さが表れているともいえる。

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ちなみに、飛込というのは冒頭でも書いたように、たった2秒で決まる競技だ。神経が研ぎ澄まされた空中で一体、何を考えているのだろうか。

「目は開けてるんですけどあんまり水をみてなくて、自分の感覚で1、2、3と数えて回転から伸ばして入水姿勢に持っていきます。109という前宙返り4回半の大技があるんですけど、その回転中は『ビュンビュン』と自分が回ってる音が聞こえます。踏み切った瞬間、入水がどの角度か大体わかるので、踏切が悪いと途中で修正することも。それでまっすぐ(水面に)入れるときもあります。まずどの位置で伸ばそうかなと考えてから伸ばす。それから自分の水に対する角度を考えて手を出してます」

この瞬間に様々なことを考えている…写真提供/JSS宝塚

踏み切った瞬間、自分の演技の問題点を考え、水面に対する身体の角度を認識する。そして回転が終わり、水面に向かって手を伸ばす。こうして飛込選手はみな、ノースプラッシュで入水するために、様々なことを2秒の中で、考えているのだ。中でも玉井選手の凄さは、空中にいる自分の身体の位置を正確に捉えられることにある。それゆえに、自分のイメージ通りに身体を動かすことができる。これが実は、「センスがいい」と言われる理由である。