コロナウイルスによる100万人の死者には約6兆ドルの価値があった

疫病と人類知(7)
ニコラス・クリスタキス プロフィール

ここで、もう1つ細かいながら重要になるのは、新型コロナウイルスによる死者の大部分は高齢者だが、この点は事実上、その他すべての死因にも当てはまるということだ。死亡率への影響を完全に理解するためには(障害や罹患率へのさらに大きな影響はさておき)、年齢を考慮に入れてから、全体的な死亡リスクに対するウイルスの影響を比較する必要がある。罹患しても命にかかわることはめったにないようなので新型コロナウイルスを恐れないという若者の姿勢は、合理的である(ただし、他人への感染を気にしないこととは違う!)。

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しかし、そもそも若者はどのような種類の死亡リスクも定量的には大きくないことを認識することが重要である。それにもかかわらず、新型コロナウイルスはすべての年齢において死亡リスクの基準を増加させる。ほとんどの親は、ありとあらゆる種類のめったにない災難が自分の子どもに降りかかるのではないかと心配する。しかし、もし子どもが溺れたり誘拐されたりすることを心配するのであれば、合理的に考えて、新型コロナウイルスにかかることを心配すべきだろう。

新型コロナウイルスで加わった死亡リスクはそれだけを見れば低いとしても、どの年齢の人でも直面する背景リスクを踏まえる場合はどのように考えればよいのだろうか? 高度な人口統計学的推定が、その考え方を示してくれる。

脅威の測定基準は「失われた人生の年数」

たとえば、3ヵ月間に12万5000人のアメリカ人が死亡するということは、死亡リスクという観点から言えば、すべての人を人為的に1.7年「老化」させたことに相当する。言い換えれば、このような時期、20歳の人には、通常時(パンデミックではないとき)に21.7歳の人が直面する死亡リスクがあり、60歳の人には61.7歳の人が直面するリスクがあるということになる。この数字はまたしても些細に見えるかもしれないが、人口という点においては、そうではない。もちろん、パンデミック緩和のために何も措置を講じなかったせいで、その間のパンデミックによる死者数が増えれば、この数字は比例して上昇することになる。仮にパンデミックが発生してから半年間で、2020年10月までに50万人が死亡したとすると、60歳の人は63.3歳の人のリスクに直面するようになり、約3.3年分リスクが増えることになるのだ。

このような比較的短い期間で大勢の人が死亡するというのに、個人のリスクがさほど大したことがないように見えるというのは、どういうことだろう? これまで何度も述べてきたように、SARS-2は深刻ではあるが、過去の大きな疫病ほど致命的ではない。

そのうえ、21世紀初頭の現在、とくに先進国では、死はほとんどの人の人生を通して、統計的には比較的まれな事象なのである。80歳の男性でさえ、次の年に死亡するリスクは「わずか」5%である。また、このパンデミックの最大のリスクを負うのは高齢者なので、死亡率への影響を見失いやすいのだ。

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