2021.05.03
# 重力

三体問題が解けないことを証明したのは誰?…ポアンカレはいったい何を証明したのか

三体から生まれた「カオス」の発見
浅田 秀樹

ポアンカレが証明したこと

一様収束する解が存在する場合、近くの異なる2点から出発した二つの物体の運動は似ていて、長時間経ても互いに近い位置にあります。

オスカル2世の懸賞課題で要求している級数で表示する解は、その一様収束するものです。

ポアンカレは何と、平面上の制限三体問題に対する解を級数表示すると、その級数が一様収束しないことを証明してしまったのです。

図2を見てください。一様収束する解が存在しない場合、近くの異なる2点から出発した二つの物体の運動は、ある時点まで似ていても、長時間経てしまうと、互いに全く離れた位置にあるのです。

それまで科学者たちは、特異な衝突解の場合を除いて、ニュートンの万有引力における運動はなだらかに変化するため、その運動方程式に対して、常に逐次解や級数解が存在するものだと信じ込んでいたのです。ポアンカレを除いて、誰一人それを疑う者はいませんでした。

結果として、「三体問題」は厳密な解を与える求積法だけでなく無限級数の形の方法さえも退けてしまったのです。これが、「三体問題は解けない」といわれる所以です。

カオスの発見

ポアンカレの発見は、当時の科学者たちを大いに驚かせました。物理、とくに力学において、運動する物体の現在の状況をある程度正確に知れば、その物体の未来は予言できると信じられていたからです。

しかし、ポアンカレの証明したことによれば、運動する物体の初期条件が少し異なるだけで、ある有限時間の範囲ならその物体のある時刻での位置を決定できるが、長い任意の時間の後では、その物体の位置を決定できないのです。

このポアンカレによる業績は「カオス理論」の始まりとされます。コンピュータシミュレーション黎明期の1961年、アメリカの気象学者エドワード・ローレンツが気象学に関する数値計算の初期値を少し変えただけで、大きく結果が変わることに気づきました。

1963年、ローレンツはその結果を「カオス」として発表しました。のちに、蝶が羽を動かすだけで遠方の気象が変わるというたとえ話にちなんで、その振る舞いは「バタフライ効果」とよばれるようになりました。なお「カオス」とは混沌を意味する用語で、元々は古代ギリシア神話における原初の天と地の間の巨大な空隙です。

また、同時期の1961年、京都大学工学部の博士課程大学院生の上田睆亮(よしすけ)が、実際の物理現象の中でカオス現象を世界で初めて発見しています。電気回路における電圧の変動現象の実験中にカオスを発見したのです。当時、この世界的業績は国内で評価されず、世界で認められるまでに10年以上かかったそうです。

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